06.逢魔ヶ刻

闇を掻き分け 黒い影が動く
ささくれた枝のような指が 触れあう
お前の顔がどんな顔か それを知りたいと
もどかしさにかられながらお前をさがしだし
根かぎり抱きしめた

細いね

うん、ほそいよ

こんなに軽くなってしまったんだね

ねえあなた、
わたしは本当に存在していたのでしょうか

ねえあなた、
わたしは本当に存在していたのでしょうか

魔性の訪れる刻
人はそれを魔と逢う限といった

 

07.視線

夜布団の中にもぐりこみ
頭からすっぽりとかぶりこんで
これでもう誰の目にも触れまいと思う

視線から逃れるためにはこれしかない

布団の中にもぐる

それしか逃げる術がない

怯える子供を庇護するのはつめたい布団しかない

 

08.鼓動

この胸に掌を置いて聞け
我輩はここにあり

その胸にもうひとつの掌を置いて聞け
お前はどこにいる

お前はそこにいる

 

09.婀娜っぽい

なまめかしくも妖婉なものよ
鬢のゆるんだ項より香るような白さよ
頬に差したほんのりとした赤さよ

ときおり姦しい声などあげつつ
道ゆくおじょうさん

温泉街での日常的な光景に
しっとりと仄かな色香を感じる

 

10.覚束ない

夏の夜に捕まえた
蛍のひかりがおぼつかない

ひかってはきえ
ひかってはきえ

きえている時間のほうが長くなり

やがてきえる

最後までひかろうとするお前を

私は縁側より出て
外に放った

光の軌跡を描きながらお前は空へと消える

そう、
お前はその姿がうつくしい