(11)旅行

 旅行というものにあまり興味を持ったことがない。
  どこかを旅してみたいと思ったことがあまりないのだ。
  だけど世の中には旅行が大好きな人がいっぱいいる。知らない土地を見たり、人と触れ合ったりするのが楽しいという主張だ。私は考えたこともない。
  イタリアやインドネシアのバリの景色を見て、綺麗だとは思う。
  アジアの料理やパスタを食べて美味しいと感じる。
  だけどそこに行ってみたいか? と聞かれるとそう行きたいと強くは感じない。
  きっと行けば行ったで、それなりに楽しむのだろうとは思うけれども、私は東京に出て行くのですら億劫と感じるのだ。ましてや交通の便が悪い地方になど行きたいわけもないし、そんな人間が飛行機を使わなければ行けないような外国に行きたいと感じるはずがない。
「じゃあどこに行きたいの?」と聞かれたら、困る。
  行きたい場所はたくさんある。美味しい紅茶の専門店とか、ジュンク堂規模の本屋さんとか、クラシックのコンサートとか、ビーズの専門店やお菓子の美味しいお店とか、「よくそれだけ物欲あるね」と言われそうなほど挙げることができる。ところがほとんどが東京に行きさえすれば用が足りてしまいそうなものばかりだ。

 旅行って聞くと「魂の洗濯」というイメージがある。
  だけど旅行に行ったくらいで私の汚れた魂は洗濯できない。むしろ心がちょうちょさんのようにひらひらとするのは、インスピレーションを刺激するものに囲まれているときだったりする。
  だから私の魂の洗濯は東京まで行けばことたりるわけだ。だけど東京というところは、空気が悪いために滅多に行かない。結論から言えば、近所に出るのも面倒だと感じる。
  どこまでもインドアだ。生れたときからインドアな人間だから、これからもきっと扉の内側で生活すると思う。

 もし扉の内側に旅行できる先があるならば、あちこち行くかもしれないと思った。
  またしてもどこでもドアが欲しくなった。どこに行けば手に入るだろう……と珍しく外に出ることを考えた。