期末テストの終わったあと

 相模中学校には特殊なシステムがある。生徒会とは別に、特別監査委員というのがあるのだ。毎回その委員会の委員長に選ばれた生徒は、その一年間をとても忙しく暮らす。僕が上条先輩からその地位をもらったのは今から二年前のことで、僕、三芳玉青(みよしたまお)はこの仕事に従事して二年目を向かえようとしていた。
  期末の結果はひとりひとりに個人情報だけ渡されるのだけれども、例外として監査委員長である僕だけは全員の情報を閲覧する権利がある。
学校の端末にアクセスして情報を調べると、英田(あいだ)は120位、今井は123位……ここらへんは猿の脳みそだな。柴田は31位……まあまあだな、篠宮さんは18位、か。
「篠宮さん中間から6位も落ちちゃったんだね」
  生徒会会計係の篠宮千恵さん。
  背中まである貞子のような黒髪の根暗そうな顔をした人。数学の点数はいつも100点、そして国語の点数はいつも40点以下、ここで彼女と僕の差が開く。
  つまるところ彼女は極度の国語音痴なのである。文法が分かっていないわけではないし、漢字が分からないわけでもないけれども、国語力と一般的に言われている読解力が完璧に欠如しているのだ。
  僕は気になってマウスで篠宮さんの名前をクリックしてみた。
  英語89点、数学100点、公民94点、理科96点、国語21点
「国語21点ってことは今回は漢字もたくさん間違ったっぽいな……」
何をどう頑張ったらこんなに点数が悪くなるんだろうと思いながらも、このままじゃあ篠宮さんは僕と同じ高校、相模第二高校には行けないんじゃあないかと思った。一番レベルが高いのは第二高校、次が相模高校、それ以下ってことは考えにくいけれども。
  僕の順位は常に5位以上だし、先生たちはなんとしてでも相模第二高校に入れようとするはずである。学ランがいいのに……相模高校に入りたいんだけどな。
  そうすれば篠宮さんと同じ学校だったりしないだろうか……なんて考えた。だからってなんだと言うのだ、彼女と僕は話したこともないというのに。
「委員長、生徒会から書類が回ってきました」
「置いといて」
  監査委員のひとりが執務室に書類の束を置いていく。
  山田とサインが入っているけれども、これが生徒会長の山田のサインでないことくらい僕は知っている。この文字は篠宮さんの文字だ。つまるところこういうこと、篠宮さんは生徒会の仕事をひとりで全部やっているということを、僕だけが知っているのだ。