灰色のアスファルト

俺が見た世界。
いきなり地と天がひっくり返り、次に灰色、アスファルト?
見る見るうちに赤いものが広がる。
これは・・・

血?

次目が覚めたときは、白い、天井…端っこに顔みたいなシミが浮かび上がっていた、まるで今の何も分かってない俺を笑ってるような、妙に癪に障るシミだ。
首が動かせずにいると、母の泣き顔が視界に入ってきた。
「悠太郎!よかった!ほんと神様ありがとう!」
汚い。
びしょびしょに濡れた顔をうずめられた時、そう思った。
「ここ、どこ?」
「病院、あなた事故にあったのよ、交通事故。7メータ飛ばされて、コンクリートに叩きつけられたのよ」
「……覚えてない」
そうか、あれアスファルトだったのか。
俺は確かもう少しで野球の大会で、部活帰りに、近道しようと道を飛び出したんだ。
まったく、運が無い。あの時間は車あまり通らないと思ってたのに。
体を起き上がらせようとしたが、足が動かない。というか、まったく感覚が無い。
「お、おい。足、足が…」
「悠太郎。あなたには…足がないの。切断したのよ」
「馬鹿野郎、クソババァ、誰が切っていいと言った!?」
「仕方がなかったのよ、命が助かるだけでも」
「うるさい、出て行け!」
足がない?俺は大会に出るんだぞ?いや、そんな高校生活どうでもいい。足がないってことは身体障害者になるって?冗談じゃない。
冗談じゃない。
冗談じゃない。
冗談じゃない。
冗談じゃない。
冗談じゃない。
誰か、これを冗談と言ってくれ。
出てくるのは先の見えない絶望ばかり。

ナースが笑いながら、体の向きを変えたり、服を変えたり、尿をする袋まで代えていく。
リハビリのスタッフが冗談なんか話しながら、これからのことを話している。
終われ。
終わってくれ。

そんな数週間過ぎた時。
俺の彼女がいきなり病室に現れ、一頻り泣いたかと思うと、
「ごめん、私…」
「ああ。わかった。俺はお荷物だもんな」
彼女は俯いたまま何も喋らなかったが、夕日が顔に当たったころ
「ゴメン」、と呟いて病室を出て行った。
俺は、近くにおいてあった物を投げたかったが、残念ながらそこまで手が届かなかった。

俺の脳裏にリピートがかかる光景がある。
灰色のアスファルト。
灰色のアスファルトにおいで。
車椅子に掛けさせてもらって、「しばらく空を見たいから窓を開けておいてくれ」とナースに頼んだ。

もう少しだよ、
もう少しで灰色のアスファルト。
君はあそこでリセットされた。
ここは本物の世界じゃない。
さぁ、窓の外へ。

『そうだ、ココは嘘の世界だ』
スポーツで鍛えた腕は、体支えて立つのじゃ使う場所も違う。
俺は何回も滑りながらわなつく手を精一杯振り絞って、窓から身を乗り出した。
5階建て、十分だ。
風が頬をなでる。
何回か落ちるところを想像した。

俺は自分に言い聞かせた。
「灰色のアスファルト―――――…ッ」
『もどる。戻るだけだ。本来の俺のなるべきラストシーンに…』
体が傾いて。
俺は頭から下へと落ちた。
やけにゆっくりに見えた。
地面だ。
灰色のアスファルトがすぐそこ…

ダンっ!!
「――――ッ!!」
『痛い。だがおかしい。』
目を開けたら、目の前には灰色のアスファルト。夏場で、焼かれたようなアスファルト?
一度見たが、血が滲まない。
そっか、一回目で随分使い果たし、もう出る気も無いのか。
『違う。』
「ぃ痛てぇ…」
体を起こし周りを良く見てみた。
セミの泣く声、ガランとした、あの日近道する途中で事故にあった場所。学校のチャイムがなるのが聞こえた…
『そうか、夢だったのか。』
じゃないと、おかしい。説明がつかない。
だが、俺は強く頭をうった感触だが、とても5階建てから身を投げた身だとは思えない。
しかも、俺は気づいた。
「俺立ってる………足がある!!俺立ってるよ!」
両足ついている、夕方でほかほかな道路の感触。裸足?
パジャマも着てる。
病院で着ていたものだ。
「いったい、何がどうなって?」
その時、クラクションがなった。
見ると、車が一台真ん前にあった。
中から厳つい柄の悪い兄さんが
「オメーさっきから何突っ立てるんだよ?死にてぇのか?オイ」
俺は数歩後ろに下がり、
「すみません。あの、俺はどこから現れましたか?」
その返答は、呆れられたような口ぶりで。
「知るか。突っ伏してたぞ。馬鹿」
そういって、車は走り出した。
結局俺はどこからきたのか分からないが、ここまで意識あった覚えが無い。
『…タイムスリップ?』
はぁ、非科学的だ。でもそう考えると不思議と楽だった。
と言うことは、俺はあの日ひかれた場所に戻ってきたのだ。
と、考えると。さっきの車は俺を撥ねた車だろうか?
さっき謝らずに一発きめときたかった。あの運転手の両足をヘシ折った所を想像して、あの地獄の病院をあいつに同じ目にあわせてやりたかったが、途中でどうにもこうにも胸がむかついてきたのでやめた。
「あちぃ。家帰ろう」
もう、いい。もう戻らないのだから。

家につく頃もう夜だった。鍵は隠しておいたところにあったのでそれで中に入った。
「ただいま…」
そういっても。この時間は誰もいない。
母はパート、父は随分前に離婚した。
俺は一人っ子だ。
なんか家が雰囲気ちがく感じるのは、長く家に帰ってなかったからか。
やけに家が片付いてる。ああ、どうでもいい、部屋に戻ろう。
上に上がっていって自分の部屋に入る。
「やけに……さっぱりしたな?」
生活臭はするだが、俺の好みと違う。いや、俺の部屋はこんな部屋ではない。
「なんかやけに違和感があるな…」
ためしにベットに腰掛けた。
ベットカバーも違う色。あれか、模様替え?母が模様替えしたのか?
横に転がった……
ああ、何はともあれ家に帰ってきたんだ。
下で鍵が開く音がした。
時計を見る、まだ母はパートしてるはずだ…そう思った。
足音が上に上がってくると真っ直ぐ俺の部屋に入ってきた。
「なんだよ、ノックぐらい…」
「はぁ?」
間の抜けた声、だが驚いて声をあげそうになったのは俺も一緒だ。

「誰だお前!」
「なに!?え?俺!?」
そこには制服を着た俺が立っていた。
そいつは数歩後ろに下がると、扉を閉めた。
なんだ、今のはなんだったんだ。
俺は立ち上がり、嫌な予感がした。俺がもう1人いる?
戸が閉まったまま。向こうから声がした。
「あの〜すみません。誰か中にいますか?」
「………いるぞ。」
「なんで、中にいるんですか?」
「俺の部屋だからだよ」
いや、待てよ。ここはあいつの部屋なのかもしれない。
いるのが間違っているのは俺か?
「ああ、いや。たぶんそこ俺、俺の部屋じゃないか?俺が間違ってないなら?」
巫山戯た野郎だ。語尾が弱弱しくなっていく、俺は近くにあったバットを手にとってドアノブを回してドアを開ける。
「わ。マジ俺がいるよ!?」
「そうだ、俺がいる。」
「……うわっ!何でバット持ってるの怖いっ、お前。明らかに俺じゃないだろ?わかった、俺ら双子?双子だったのか?君は弟?それとも兄?」
へっぴり腰に後ろに下がるので、俺はバットを突きつけて。
「中に入れ」
「下ろそう、それ。入るから!」
手を上に上げて降参した状態のポーズを取ってゆっくりと部屋の中に入っていく。ゆっくりバットを下に下ろし。部屋に鍵をかけた。
「あの、お、俺、悠太郎。浅野悠太郎。君は?」
「同じ名前だ…」
「同じ…お前の親も同じ名前つけたのか?」
「馬鹿じゃねぇの?俺はお前だ…」
どうする。こいつに全部話すべきか…そう悩んでるとまじまじと俺の姿見ながら。
「きみ、よく見ると。病室のパジャマ着てるね?病院にいたの?」
「ああ、病院にいた。だが窓から飛び降りた」
「それで入院?」
「いや、交通事故だ」
「え、それ矛盾」
「訂正する。足を失って嫌になって窓から飛び降りた。この世界に来た」
「……頭大丈夫?」
大丈夫か?恐らくそれであってる。
「間違ってはいないだろう。だってそうしないと俺とお前がここにいるのに説明がつかない」
困った顔をして。暫く頭かしげている。
ふと思いついたように。
「じゃ、俺、別の世界で交通事故あって足なくなって飛び降りてここにいるのね?足ついてるけど…なんか残酷。」
酷くショックうけたようにして、気の毒そうにこちらを見てくるので。
そいつの近くにあった椅子を蹴った。
「生憎ついてるんだよ、嬉しいことに。わるいか」
「うわ!怒らないで…悠太郎くん。とりあえず、混乱してるのは俺もおんなじだよ?ココは話しあおう。」
「これ以上何話すって?」
「……今後の君。どうするの?」
そこでぐぅ〜とお腹が鳴る音がした。
「………ご飯にしていい?」
緊張が崩れていく、心なしかお腹が今更自分も空いてきた。

二人で一回に降りた。彼は手馴れた手つきでご飯を作り始める。
おかしい行動はしないのでそのまま見ているとあっというまにチャーハンを作って、二つ用意してくれた。
俺は無言に食べた、俺は料理は家庭科の授業でしか作ったことが無い。こいつはなんか家庭的だ。
「おいしい?」
「ふつう」
「君チャーハン好き?俺結構好きだったり…」
「特には」
「そうなの。やっぱなんかこう…違うね、俺ら?」
「そうだな。俺はお前みたいな性格じゃない」
「君の事、聞いていい?」
めんどくさいな。
そう思った、めんどくさいこいつ。でもこうなったら普通は知りたがるのだろう。黙々とスプーンでチャーハンを口に運び。
「…何が聞きたい」
「君の世界じゃ、俺みたいじゃなかったんだろ?こう周りの関係は?」
「ばばあがパートしてる。特に会話が無い。親父、離婚した」
「離婚!?」
裏返った大声で信じられないという顔で固まられた。
「お前のところはしてねーのか。」
「してない。むしろ仲良し…」
「あ、そう。」
俺の親父は喧嘩はしてなかったが、突如離婚して出て行った。それから金だけ払って、音信不通だ。こちらの家庭はそういうのはなさそうだった。
「で、君。部活は?」
「野球部」
「あ、野球部。それは一緒か。」
ぼそっ「ヤンキーかと思った」と聞こえた。
誰がヤンキーだ。まぁいい、他に言うことあったか考えてたら、ムカつく女の顔がうかんだ。
「マネージャーと付き合ってる」
「嘘ー!?美紀ちゃんと?」
少し見ろ乗り出してきたので、軽くそいつから距離をとる。何期待してる。
「…この前別れた」
「残念。そうか、美紀ちゃんと…かわいいよね」
「クソ女だぞ」
「ええ、そちの美紀ちゃんクソ女なの?」
「……足失った俺をあっさり捨てた」
頭にあのうざい台詞が蘇ってきて、とっととその記憶を後ろに追いやる。
「…うん、分かった。納得」
なんか複雑そうな顔をして、体の体勢変えて気まずさを紛らわすようなそぶりを見せる。
「で、友達誰いるの?成績は?修学旅行どこ行くの?」
その後、夢中になって話す彼とたんたんとどんな生活をしていたか話し合う。
どうやらこいつの方が一般的に言われる平凡な人生を満喫して送ってるらしい。
人間関係も少し違うようだ。聞いたことあるような無いような人物達、生活パターン、俺が興味ないようなことに興味を示す。
すいぶん時間が経ったとき、玄関で誰か入ってくる気配がした
「ただいま〜」
玄関で聞きなれた声、母だ。
やばい、と椅子から立ち上がり、周りを見渡して。手招きして、ソファーを指差してきた。
「まって、ソファーの後ろに隠れてて」
屈んで、視界に入らないようにして、あいつがとる行動をうかがう。
真っ先に玄関に向かっていくあいつの声が響く「母さんおかえり、買い物袋持つよ。それより、ちょっと風呂場来てくれない?なんか壊れたみたいでさ、お湯が入んないんだ」
「え?ちゃんと試したの?壊れたなんて面倒ね」
そう言って風呂場に向かわせた、俺はそそくさと二階に上がっていった。あいつ、見えないとこで俺のこと喋ったりするんじゃないかと、少しドキッとした、床に耳を当て、息を潜める。
「壊れてないみたいよ?」
「お、おかしいな。いや、ありがと、後ではいるよ。あ、ご飯先に食べてたから。」
「皿二人分?誰か来てたの?」
「あー友達、もう帰った。皿洗うよ。」
どうやらこっちの世界ではそんなに母とは仲が悪くないらし。
暫く当たりさわりない会話をして。
そそくさと、上に上がってくる音。部屋に戻ってきた奴は。
「さてと、いきなりは部屋に入ってこないから。滅多なことで入ってこないだろうけど…まず、同じ服装にしないと。たしかTシャツとジャージは同じだから。でもあれだ同じ服明日買ってこなきゃ」
そういいながら、タンスから洋服を引っ張り出す。
「何考えてるんだ?」
「成り済ますんだよ、家親いるんだから」
「……無理がある」
「大丈夫だよ、お父さん単身赴任だし。母さん昼間はいないし!」
「そんな面倒より家出したほうがいいような気がするが…」
「えーあては?」
「ない」
「補導されたらアウトだよ。」
「とりあえず、今日はその作戦で凌ごう」
二人で服を着替える。
「悠〜お風呂沸いたわよ。」
下から声がした。
「じゃ、ためしに、風呂行って見ようか?先にどうぞ。次俺が…」
「二度風呂に入ったら怪しまれないか…昼間入ればいいだろ、どっちかが」
「それは……そうだけど、とりあえず。君大丈夫か行ってみなよ」
ほんとに大丈夫か確かめるため、俺は下に降りた。
母がいる、自分だけの晩御飯を作っているのか。少し雰囲気が違う、若干印象が若く見える。仕事漬けでやつれてるわけではないようだ。
「どうしたの?悠?そんなにじろじろ見ちゃって」
「いや、なんでも」
「ねぇ、さっきから上で二つ足音聞こえてたんだけど?」
「気のせいだろ」
足音を聞かれていたのか、真上だしな。
俺は冷蔵庫の飲み物を取って飲んで。風呂に向かった。
軽くシャワーで体洗って。手早く二階に上がった。部屋でなんかにやにやしてるやつに…
「足音が二つ聞こえるとさ」
「え?じゃ、足音消す」
「できるか」
「お布団どっちが下で寝る?そうだ。ポテチ食べる?」
なんか、この場を楽しみ始める、こいつに俺は頭を傾げた。
「なんでそんなに楽しそうなんだ」
「え、よく考えたら。これは非日常的で楽しいじゃん。俺が俺とポテチ食う。ゲーム二人対戦。学校ぶっちゃけ行きたくない日は片方が行く。完璧ジャン」
馬鹿だこいつ。俺はベットのほうに入った。この疲労は精神的疲労だろうか。
「俺寝る」
「わかった。寝よう。」
俺が横なる前に電気消そうとしたら。
「君、寝る時真っ暗にして寝るの?」
「消して寝る」
「ひとつだけつけていい、手元見えないの怖いし」
俺は問答無用にスイッチを切った。
横になって寝ると。
奴は小声で「おやすみ」と言ってきた。
俺は「あ、そう」とだけ言って寝た。

覚めた。動けない。周りが見えない、声だけが聞こえる。
「この子か、病室から飛び降りたのは……」
「せっかく助かった命なのに、自分から絶つなんて」
「ご家族には…」
「母親とは連絡がつくんですが。父親からはまだ…」
俺、俺は死んだ?そうか死んだのか。
じゃ、死んでも夢って見るのか。
あの、もう1人の俺は夢か。そうか、俺はあのまま落ちて死んだのか。
面倒が減ったな…

ねぇ…起きて

死体袋を揺さぶる奴がいる。
「ねぇ。起きて」
ああ、駄目だこれ…夢か…
俺はそう思って目が覚めた。
「うなされてたよ。大丈夫か?」
「元の世界で俺は死体袋に入っていた」
「お前死んでない。ほあら、」
そういって頬に手をあててくる。奴の体温が伝わる。
「あったかいよ。触れるし、いる」
「ああ、そうだな地獄だ」
「俺学校行くね。ごはん適当に食べて、服を2着同じの複数買ってきて。お金机の上に置いた」
「そう。」
「行ってくる。そっち気おつけてね。お母さんもう出たから大丈夫だぞ」
そう言って、早々に出て行く。
俺は起き上がると足を触った。ある、死んでない。
立ち上がって、下に降りた。
がらんとした、誰もいない。冷蔵庫開けたが元々俺は何も作らないいつもカップラーメンか何かで済ませていた。中を少し漁った、出てきた残り物も俺の苦手な煮物だけだった。
「コンビニで食うか…」
服を適当に着替え、玄関の外に出た。
鍵を閉めて、歩いて駅前まででるバスに乗る。
駅は流石にあまり配置は変わってないコンビニで食事を買った後、それを口にほうばる。
服屋に入ってどれにしようか選んでいると、好みの服が合ったが、あいつが着そうな柄か少し考える。
こいつの服の趣味は同じなのかそうじゃないのか不明だ。服を二着ずつ無難なのを選んだ。
家に帰る途中も人目を気にした。どこで誰に合うかわからない。
下校時間になる前に家に帰り、部屋で服の値札を外した。
「入りきれるか?この服」
タンスに入りきれないので端っこに積み上げる。

「た〜だいま〜」
「学校でなんかあったか」
「今日は辛かった。実は昨日、家に俺がいてパラレルしちゃったんだって」
「言ったのか!?」
何考えてるんだこいつと怒ったが、体の身を縮めて。
「言ってない、ほんと!マジ言いたくってうずうずしてた!!」
頭をばしりと叩いた。今日は誰かに見られんじゃないかドキドキしてたのにこいつは。
「ごめん。服これで全部?」
「服買い過ぎたか。タンスに入らないし」
「ダンボールに詰めとこう。いや、なんか双子みたいだ」
「アホ…」
こんなやり方でばれないと思ってるのか…そう思ってたが。
家で母が気がつくことは無かった。何度か危ない駆け引きはしたが。今のところは見つかっていない。
強いていうなら、こんな事件ぐらいだ。
「「最近あなた反抗期なの?」とか言われた!」
「あ、このまえつい「クソババァ」って、いったからな」
「じゃ、今度から俺もクソババァと言っておく。なんとなくお前の要素いれる」
「親に反抗したことは?」
「中学の時少し…か?でもクソババァって言ったかな?」
少し考えたように首傾げる。たいした反抗期じゃなかったのだろう。
「あ、そうだ。母さんは明日から実家に帰るって。おじいちゃんとおばちゃんの介護だって」
「ジジイもババァも生きてるのか、どれくらいの期間だ?帰るのいつ?」
「……わかんない。でも長期なの間違いないよ。仕事辞めたって言ってたし」
「そうか。これで家にいる時の鉢合わせを心配すること無いんだな」
体の体勢を崩してベットに横たわる。
「おじいちゃんとおばあちゃんには悪いけど。よかったな、これで自由だ」
背伸びして足元に転がるやつがいるので体の体勢をまた変えた。
こう上手く行くとはな。なんだか話が上手すぎないか?
「そうだ、明日、学校に行って見ない?家に篭りっきりだろ?」
「なんかあったのか?」
「ん、なんでもない。部活にも出てね」
なんか流れ的に行くことになったが、学校か…
なぜか悪い気はしなかった。
「よく聞いてなかったがお前誰と友達だったって?」
「鈴木だろ、福田、上田。」
「分かった。おまえの勉強してるノート見せろ。」
「ゴメン、学校に全部おいてあるんだけど」
「そうか」
次の日学校行ったら。小テストだった。あの馬鹿、点数下がっても知らないぞ。
俺は名前だけ書いて、ペンを置いた。
回答見た先生が「調子悪いのか?」と聞いてきた。
「気分が少し悪いんです」
「そうか、まぁ、次頑張るように」

テストが終わって鈴木と福田、上田。どいつもあいつだと思って話しかけてくる。話をきいてるて、頷いていると。
何かあったのかと鈴木いわれた。
「じじいとばばあが危篤。死ぬかも」
「無理するな」
「だからテンション低いのか」
「俺のとこのジジイもやばいって…」
ぎこちなかったが雰囲気は掴めた前はただのクラスメイトだったが、まぁ、俺の世界ではつるむタイプじゃ無かった。ちらりと前つるんでいたグループを見た。違うやつと仲がいいらしい。まぁ、どうでもいい。友達といえるほどいい仲でもなかった。

放課後部活にでたら、美紀と鉢合わせした。
「クソ女」
つい、口から言葉が漏れた。
「ええ!?何いきなり君そういう子だっけ?」
もちろん驚くだろう。わけわからんと。
彼女を放置してさっさとグランドに出た。
練習が始まる。
「お。浅野、お前腕上げた?」
「なまったかと思ったが…」
「いや、絶対いいって、お前。こう何?目線いつもよりしまってるし!今年の夏チームに入れてもらえるかもってレベルじゃん?やばい、どうしたの?」
そうか、こいつ野球得意じゃないのか。
やりがいが無いな。ここはあいつっぽくドジするか。そう思ってわざと大きく転んだ。
やっぱお前らしい、と訂正された。

「どーだった?」
何か感動的な出会いはあったかと言わんばかりのアホズラが玄関で待機してた。俺は短く呟きながら靴を脱いだ。
「普通」
「普通と言うことはないだろ!?」
「ああ、びっくりした」
「何に?」
期待してきたので、ちょっと苦笑してやった。
「野球弱かったのか?」
「え?君強いの?」
「少なくても大会にでるぐらいの実力はある」
「へーじゃ、今から野球やろうか」
「誰かに見られたらまずい」
「深夜いこう。深夜」
「そんな暗い中でできるか」
そういってたら。腕掴まれた。
「怪我してる?」
「大きく転んだ」
「駄目ジャン」
「お前に似せるためにそれらしい行動とったんだよ」
「わかった。」
そう言って彼は家から出て行った。
そとでズシャーーと転ぶ音がする。
外をそっと覗いてみるとやはり転んでいた。
そのまま何事もなく起き上がって、帰ってきたこいつは、同じ腕に怪我をしてきた。
「おそろい。」
「何考えてる」
「いや、そうじゃなく。同じとこ怪我して無いと今後表出る時、おかしい言われるだろ?同じにしてなきゃ」
こいつ、わざわざそんなことのために怪我したのか。グランドとコンクリートで転ぶとじゃわけが違うのに。
「また学校行くだろ。俺もなるべくお前とつりあうようにがんばる」
「ああ、俺もお前に合わせる」
そうしないと生き残れない。

そういって。俺らの入れ替わり生活が始まった。最初は苦痛だったこいつのフリももう板についた。そうか、俺はなんかこんな生活に憧れていたのかもしれない。
ああ、こいつの人生このままもらってしまおうか?
もらう?
そうだ、あいつ死ねば。俺はもっと自由になれる。
だが、死体どうする?殺し方は?こいつを殺す?
焼死体、駄目だ死体確認される。
崖から突き落とす、駄目だ見つかるだろ。
海に沈める…上がってきたら面倒だ。
何かで殺して山に埋めに行く。
どれもなんか無理がありそうだ。
俺はネットで探してみたが。どれも使えるネタ的には合わない。

深夜頭からそのことが離れずにいると、いきなりあいつが苦しそうにうなされていた。
体を軽く揺する。起きないので、肩を揺すった。
「うわあああああああ!」
「どうした、悪夢か」
「怖かった。お前が、いきなりヨットで旅に出よう言ってきて、俺、一緒に旅出るんだけど、ヨットから落ちて…」
あ、それなんかいいかな。だがヨットは無い。
「で、なんか宇宙人が出てきて、俺のこと攫っていって、お前があいつの人生を代わりに送れって足切断して、病院に置き去りにされるの…で、母さん俺のことおかしくなったていって病院に隔離されて」
「あ、一通り最悪だな。でも夢だ途中から夢がありえない展開だ。いや、すごい完全犯罪だ」
「おまえ、向こうの世界に戻っちゃ駄目だ。向こう最悪だ。ずっとここにいろ」
「……わかった。寝てろ」
余程どうようしたのか、トイレ行ってくると言って、暫く戻ってこなかった。

俺はあいつを殺そうとしてるのに…あいつは殺されても俺のこと心配してたな。
……殺すの止めるか。
大体やり方が思いつかない。

「ねぇ、旅に出ない?」
それは唐突だった。
「は?どこに?」
「誰も知らないとこいこ。ほらなんだっけ。あそこ」
「あそこじゃわからねぇよ」
「小さい頃、いった貸し別荘の近くに山あったじゃん、すごい絶景の」
「…あったな」
確か親父が小さい頃連れて行った山奥だろう。アウトドアが嫌いになれるコースだった。
はるか昔過ぎだったが、なんとなく覚えてて。パソコンでひいてみた、案外簡単に見つかった。
「お前、山好きか?」
「え?うん好きだよ。見せたい場所あるんだ。なにより堂々と二人で歩けるじゃん。夏もう少しで終わりだし行こうよ」
そう言って、旅に出るのはあまりにも身軽な格好で、電車を乗り継ぎ、バスに乗り、山に入っていった。山道を登っていくと、あいつはあっと言う間に疲れてへばった。
「あと、あともう少し。」
「どこだよ。その絶景って」
休み休み昇っていくと、大きな崖に出た。下は絶壁。見渡すと確かに絶景だった。
「な?いい景色だろ?」
「そうだな。」
俺は下を除いた。その瞬間頭を何かが掠めた。危うくバランスお崩しそうになり。体勢を立て直す。
もう1人の俺が、ケリを入れてくる。俺は腹を蹴られ、崖のすぐ目の前まで転がった。
「何する…」
「殺すの」
サラッと言ってきた。
「だってもう、おわり。」
「終わりってお前」
「お前、俺殺そうとしただろ!ネットのログにアドレスがあった!」
「それは…その通りだ。お前を殺そうとした」
「父さんも母さんも帰ってくる。それにお前どんどん俺に侵食してくるまるで食われてしまいそうだ。あの日、ほんと殺しとけば良かった」
「あの日?」
そういったら、足で思いっきり胸を踏まれる。
「そうだよ、家に上がりこんできて。料理作ってたあの日。包丁でやっぱ刺すべきだった!」
こいつ、会った初日から…俺を殺そうとしてたのか?
「怖いから様子覗ってただけだ。」
「なら、ならなんで……なんであんなに優しくした?」
「それは、お前が油断するからだよ?分かるだろ?俺を馬鹿にしてただろ?劣ってるってさ?」
図星だ。俺は油断した。まさかこいつのあれは全部演技だったのか?
「俺は、自分の人生から降りない。勝手におしまいにしたのは、君。君は病院から落ちて死んだんだ。ゲームオーバー。それが君」
だからここに来て、落ちて死ねとでもいうのか?
「じゃあね。悠太郎」
そう言って足を最後の一撃をきめようとした瞬間。俺は咄嗟に足を掴んだ、そのまま足を握り崖にめがけて投げた。全力で落とそうとしたのだろう、力任せにした体はバランスを失い。
落ちた。
暫くしても、音は聞こえなかった。
俺は手が震えていた。まさか引っかかって生きていないだろうかと、身を乗り出してみるが崖の下には何もなく、壁にも誰もひっかっていなかった。
おしまい?
これでおしまい?
あいつはどこに行った?
その時、俺は思った、俺は窓から落ちようとして移動した。
じゃ、あいつは…病院の

病院の灰色のアスファルト?

俺は暫く呆然としていたが。何もかも俺が考えてた通り、いや、死体も残らない。脚もある、人生もある。
だが、なにか大きなものを失った。
どう帰ったのかは覚えてない。
ただ俺は、道路を飛び出したこともそうだった、病院から飛び降りたのもそうだった、今度は人を殺そうとして殺されかけて、そしてこの手で葬ったのだ。
全部破滅的だ。

ああ、まるであれだ

灰色だ。

 

 

 

 

END