ニケの旅のきっかけ


俺は双子の姉のルネを連れて逃げていた。何かに追われていた、それがなんなのか俺には解らなかったが、捕まったらヤバイということだけはわかっていた。
ルネが「待って、私もう走れない」と言っていたが、俺は構わず姉の手を引っ張って走った。体力はもう限界だった上がる息幼いからだにかかる負担、もう走れないそれは俺も同じだった、走っても走っても行く先は闇ばかり。すぐ向こうさえ吸い込まれそうな漆黒の闇がどこまでも、どこまでもと続いてて、このまま逃げられずに捕まるんじゃないかと思った。
「ルネ!走って!」
「あ!」
ルネが躓く、俺の手からスルリとその細い手は滑り落ちた。俺は振り返った時は後ろから大きな闇の影が押し迫っていた。俺は怖くて後退りした。
「助けて、ニケ!助けて!」
そういってルネは闇の手に飲み込まれて姿を消していった。
「姉さん!ねーさぁーんーーー!!」
俺は消えた場所に近寄り闇の中叫んだ。

「おいて、行かないで……」
そううわ言で喋っている自分に気がついて目が覚める。
ムルリと体を起こすとそこはいつもの自分の部屋だった。
目をこすると少し涙が滲んでいた。
「また、あの夢か…」
姉のルネと逸れ途方にくれて街道を歩き、腹が空いてきてもう動こなくなり、道端に倒れこんだのは現実だった。
俺はそれから空腹で意識を失い。
旅の途中の今の育て親のばばぁに育てられ、この森奥深くの小屋で暮らしてる。
「・・・っ」
零れそうな涙を拭きとってニケはカーテンを開けた。
外はもう日が高い。と、いっても森の中なので少し薄暗い。
「ニケ。ニケや。まだ寝てるのかい?全く寝るばっかりだともっと背が伸びちまうよ、あんたでかいんだから」
そう言ってばばぁが入ってきた。背中が折れ曲がり鼻は魔女のような鷲鼻。しわしわの顔にギョロッとした目でこっちを見て。
「おや、起きてたのかい?ご飯ならもう先に済ませたよ。あんたのご飯はもう冷めてるるよ。とっとと食べな」
「ああ。そうだな…」
屁理屈のおおいババァだが、俺を助けて森の人里はなれたところでひっそりと育ててくれた恩人だった。変わり者で有名で、魔女みたいに薬草やなんやらを積んで薬を作っている。
少し離れたとこの村では有名だ。いい意味は特にない。薬を渡しに行くが村人はナイトメアな俺を育てるばばぁを薄気味悪く思っていた。
俺も村人からはよく思われていない。小さい頃村のこどもによくイジメられた、大人は黙って見て見ぬふりで。俺はその虐めた子供をやっつけ返すと、凄い抗議がばばぁと俺に向けれた。
ナイトメアだからしかたがない。
ナイトメアだからしかたがない、親の父親も俺達ルネと俺が邪魔になり。口減らしのために俺達を街道に置き去りにしていったのだ。
母親は2人もナイトメアを生んだのね俺が体から出てきた時悶え死んだと聞く。
俺がそんなこと考えてると。ばばぁは杖でばしっと足の部分を叩いて「さっさと食べにいかんか」と急かした。

スープを啜ってると香辛料が薄いことに気がつく。
「味、随分薄いな」
「もう塩や他の香辛料も底尽きてね…そうだ、あんた。この薬をいつものように持って行って変えてもらいなさい」
ばばぁは包袋を俺にの食べてるテーブルの横に置いた。俺は食べるのをやめて。
「ああ、その為に待ってたのか?俺に届けさせるために」
「あたしゃ腰が痛くてね。あんた無駄に体力あるんだからすぐだろ。行ってきな」
「はいはい」
俺は残りのスープをすすって飲み干すと。その包ともって、壁に立てかけていた剣を腰元にさした。
「行ってくる…」
そう言って、俺は外に出た。外は鳥の鳴き声と虫の鳴き声が聞こえた。俺は木漏れ日のさす光に手を少しかざした。
「……」
自分の白すぎる肌をすり抜けて入る光は血管も見えそうな感じだ。
「ぼさっと立ってないで行きな」
「今行くって。たく…」
急かされて俺は森を抜ける道のりを歩いていった。
モンスターらしきものにも会わず、村までついた。
村の入口に入ると。
「げ、ニケだ」
「なにしにきたんだよ」
割と年は近い、昔から仲が悪いクソガキ男二人にあった。
軽く舌打ちし。俺は無視して村の中に入った。
「無視かよ。」
「どうせ怪しげな薬売りに来たんだろ。知ってるか?あの薬、毒少し混ぜて、依存性出すようにしてるんだと」
「どうりで、じいさんがあそこの薬使い続けるわけか。やーい、魔女のナイトメア」
あー、ウザイウザイ。そう思いながら俺は村にある食品売の店に入った。
「いら…なんだ、あなたなの?何かしら?しばらく村には来てなかったけど」
明るい声を出したのは最初だけで、俺の姿見ると明らかに嫌がるそぶりで俺を見てきた。いちいち反応してられないので俺は薬の包をカウンターに置いて。
「香辛料が切れた。この薬を代わりに譲ってくれ」
「あなた、塩が貴重なの知ってる?」
「俺のところババァの薬がよく聞くのは知ってるだろ?それなりに売れるって知ってるんだぞ。塩や胡椒ぐらいは買えるはずだが?」
ふっ。息を漏らして店番の女性は中の薬を確かめた。珠盤でいくらになるか見て、店の戸棚をあけると代わりの品を差し出し。乱暴にそれを包に入れてよこした。
「はい、これでいい?もういいかしら?帰ってくれる?」
品を確かめた。店から離れたらもう返品とかはできない。嫌がらせされてないか確かめて。包に戻す。
「ああ、世話になったな」
俺が店から出てくと視線が会った村人が視線を急いでずらした。
俺は足早に村を出た。

俺はすこし歩いたところで木によりかかた。
「こんな村…」
目をつぶると光がちらちらと樹々の気持ちいい葉の色が見えるようだった。そのままうとうとし始め、俺はいつの間にか木を背にずるずるとしたにへたりこんだ。そののま夢の中に入っていった。

「ニケ」
「あともう少し寝かせてくれないか?」
誰だ、こんな眠たい時に。
「ニケいつまで寝てるの?皆に追いつくために急いでるでしょ。あなたがここで寝てたら私たち置いてきぼりよ?」
俺は目を開けた、懐かしい顔俺に似ている、少しツンとした美しい女性。俺と同じ白い肌、赤い目、そして角。
「ルネ?」
「なに?どうしたの?」
俺は両目に涙が浮かんできた。
「本当に姉さんなのか?」
「なによ、苦虫食べたような顔して、あんた泣いてるの?」
「ないて…ないよ」
「そう?じゃ、そろそろ行きましょう、もう少しで森抜けられるわ。」
「ああ、………!?」
体が動かない。
ルネは気がつかない様子でそのまま歩き出した。
「私、先に行ってるね。貴方が来るの待ってる。待ってるから追いかけてくるのよ?」
「……っ!」
待ってくれと叫んだが声が出ない。

「置いて、行くな!」
そのまま飛び起きた。
俺は先程寝ていた場所にそのままいた。ルネが歩いていった村の方角を見た。
「夢?」
いままで、小さい頃の夢ばかりは見ていたが、成長したルネを見るのは初めてだった。
「……生きている?」
俺はあの日逸れてからルネの事を忘れたことがない、だがばばぁにもう死んだだろうから諦めなさいと言われていて。その気持を閉まっていた。
だが、今はルネがどこかで生きているんじゃないかという気持ちがあふれていた。
「待っている。ルネは待っていたんだ。ずっと、俺が迎えに行くのを…」
そう思うと、涙がでそうだったが、ぐっとこらえた。
「迎えにいかないと…」
そうおもって、森からでようとしたが。
「ばばぁを忘れていた…」
命の恩人であるばばぁを何も言わず置いていくのもどうかとおもった。
下に落ちてた香辛料の包み紙を拾い上げて、俺は森の奥のばばぁの居る小屋に向かった。

「遅かったじゃないかい、ニケ」
俺が戸を開けると、ばばぁは振り向きもせず竈で煎じた薬草を混ぜていた。
俺は中に入ると、包をテーブルの上に置いて、背を向けたまま。
「ルネは死んだなんてほんとは嘘なんだろ?ほんとは知らないだろ?」
「いいや、あんたの姉ルネは死んだんだよ。あんただけあそこにいたんだ」
「ちがう。ばばぁは見てない。ルネは生きてるんだ。俺思い出した。あの日俺達追われてたんだ。そう、よくわかんねぇけど、怖い男たちに。俺は逃げ果せたが、ルネはそいつらに捕まった。きっと人さらいだ。攫われたんだ」
「そう、でも同じ事だ。ルネはきっと生きていないよ」
「いいや、生きてる!」
俺はダンと、テーブルを叩いて、今度はばばぁを見た。
「俺は見たんだ。夢だったけど。ルネは生きていて、俺と旅してて、俺を待っているってそう言って行っちまったんだ」
ばばぁが鍋回す手を止めて。一呼吸ため息して。
「そりゃあんた。お前がルネの気持ちが断ちきれなくてそんな夢をみせたのさ。ありゃしないよ、そんなの」
「そんなことない。生きてる。俺は探しに行く。ルネを。」
「おだまり小童!」
そこで大声出された。
「あんたが死にかけてるとこ助けたのはこのわしさ、今更出ていくとか。っこの、とんだ恩知らず!ええい、お前は勘当だよ。出ておゆき。ほら、でておゆき荷物でもまとめて」
「ばばぁ、俺は別に喧嘩別れは…」
「おだまり。これ持って出ておゆき!」
そうまくし立てるように、端っこに置いてある袋を押し付けられた。そのままずるずると外に突き出された。ばばぁは追いだすと扉を閉めて中から鍵を閉めた。
「おい。ばばぁ!」
俺は荷物をちらりと見た、なかにはそれなりの準備された物が入っていた。
なんだよ、この冒険者みたいな準備のいい荷物はと思ったが。
それがばばぁにできる優しさだったのだろう。ばばぁもまた占う力は持っていた。きっとこの俺が旅に出ることは知っていたんだろう。
俺はしばらく外で小屋を見てたが、ここにいてもきっと仕方が無いのだろうとおもった。
「ありがとうな。ばばぁ」
俺は背負袋を背負い、先程通ってきた道をとおって。先ほどの村にでだ。
「なんだよ、ニケまた来たのかよ」
男二人がわらってこち見てる。
俺は、そいつらに近寄った。
何度も殴ってきたので少し向こうはビビっている。
「なんだよ?」
「世話になったな。俺は出ていくがばばぁとは仲良くしてやってくれ」
「はぁ?ニケどこかいくのか?」
「へぇ、そいつはせいせいだな」
そう言ってくくと笑う二人。俺はため息ついて。
「まったく、最後まで気に食わない奴らだ」
そう口にして。踵返て村を抜けて出ていこうとした。
二人が入り口までついてきて。
「本当に行くのか?」
「当たり前だろ。勘当されたんだ」
「あの、お前の味方の魔女にか?」
片方の男が眉潜めて、腰元からなにか出した。
「これもってけ」
もう一人の男も、ポケットから何やら出してくる。
「なんだ?これ?」
「食べかけの保存食だ」
「俺は食ってないが、やる」
「今更仲良くなるきはないが、ありがたくもらっとく」
そう言って二人から、保存食をうけとった。
なんだこいつらの優しさは?同情されたのか?
俺は怪しげに二人をちらちら見ながら、村の外に出た。
男たちは何事もなかったように戻っていった。
さて、出てきたはいいが何処に行こう。
「まずは…街道をさがすか…」
俺はルネとはぐれた街道を探すことにした、誘拐した男たちの手がかりがあるかもしれないと…

のちに冒険者になった俺だが、まだ姉とは会っていない。
きっとどこかで俺を待っているんだと。そう信じて俺は旅をしてる。

二ケ編 おわり