ニケの旅 02


ニケは昔捨てられた街道を目指した、と言ってもあれはどこあたりのことだったか…ニケは自分の住んでた森と村以外で外を歩きまわったことはない。
幼い頃の記憶なので、自分の生まれた村の記憶は曖昧だった、村で今の村と同じように嫌われていて、父親も俺達をあまりかまってくれるような親じゃなかった、村の人間の機嫌をうかがっていて、俺達が苦しんでいても、「お前が、我慢しろ」と言っていた。でも子供の頃なのでルネや俺はそのまま捨てられたら生きていけないことぐらいわかっていた。だから必死に耐えていたが、ある日、村の飢饉で口減らしのために村人は俺達を追い出すことを会議で決めて、父はそれに従って、俺達を村から離れたところに捨ててった。
しばらくルネと行く宛もなく歩いてたら、後ろ方から人間の男たちが俺達を見つけて捕まえようとしてきた。
俺はルネを連れて逃げた、途中でルネが足を躓いて転んで、男たちに捕まったが、俺は怖くてそのまま逃げた。
男たちが俺を探して回ってる時俺は、橋の下に身を潜めてやり過ごしたのを覚えている。
「あのガキ、どこいった?」
「あいつ、男じゃなかったか?女のほうが高く売れるのにな」
「まぁ、いい。ナイトメアの男なんて好き好んで買う奴はいないだろう、もどるぞ」
そういう会話して、男たちが去った。
俺は捕まったのが俺じゃなくてよかったと思って安心したが、すぐにそれは間違いだと気づいた。
俺はルネを取り戻そうと道行く人に「姉を助けて」と頼んだが。
皆顔をしかめて「あっちにいけ」と言った。
俺は悔しかった、俺がナイトメアじゃなかったらこの人達はルネもたすけてくれたんじゃないかと、自分の角を掴み引っこ抜こうとしたが、角がただ痛いだけ、抜けはしなかった。
俺はルネがどこに連れていかれたか、探し歩いたが、しばらくするとお腹が減ってきて、道端に座り込んだ。
「お腹が空いた」
(もう、終わりなんだ。)
そう思った。俺の意識はそこで途絶えた。5つに別れた道の真ん中で。

「5つに別れた道…」
そうだ、5つにわかれた道だった。そういう道は少ないだろう。
俺はとりあえず、道らしき街道を歩いていた。ふと、幼い頃の記憶が蘇ってきて俺は歩みを止めた。
真っ直ぐ伸びる街道を俺はしばらく眺めて、また歩き出した。
しばらく歩いていると、後ろからのろのろとロバが車を引きながらこっちに近寄ってくるのが見えた。
手綱を引いてる男が軽く頭を下げてくる。
俺はしばし話しかけるか躊躇してる間に引き車はいきそうなので呼び止めた。
「おい、ちょっといいか?」
「はい?なんだい?旅人さん?」
男はロバを止めてこっちを振り向く。
「すまないが、ここらへんで5つに別れた道を探してるんだが…知らないか?」
男はうーんと考えて、首をふった。
「いやー、ワシはこの道を30年の間食料を街まで運んでるが、そういう道は知らないな…この先に大きな街がある。そこに冒険者の宿があるから、旅人さんに聞いてみなさい、ひょっとしたら知ってるかもしれないぞ?」
「そうか、ありがとう。」
俺は歩き出そうとしたら、後ろからさっきの男がこえかけてくる。
「おまえさん、歩いて行くのかい?良かったら後ろに乗せていくが…ここらへん蛮族もたまに出る、よかったらその剣で守ってくれると助かるんじゃが」
「俺を?」
「冒険者じゃないのか?」
俺はしばらく黙っていたが。
「いいや、だが、これから登録しようと思ってたところだ」
「ただとは言わんよ。すこしばかりだが金は出す。」
俺は黙って積荷の横に座った。
ロバは動き始めた。俺は内心この男にだまされてないか考えたが、理由はみつからない。
なんで親切に話しかけてくるのか?
「あんた、エルフ生まれのナイトメアさんだろ?どこの出身だ?」
「いや、わからない。幼い頃追い出されて…」
「なるほどな。苦労したんだろうな。…だが、街に行けばそんな偏見は少ない。きっといい仲間とかみつかるよ」
「……やけに親切だな?」
「なに、ナイトメアの冒険者なんて見慣れてるしな。ワシは誰にだってこう接してきた。これから先いい出会いとかあるだろうから心は開いておいたほうがいいぞ」
「そういうものか?」
「うんうん、そういうもんじゃ。」
しばらく街道を揺られて行ったが特に蛮族の襲来があるわけじゃなく。そのまま一日が過ぎて、街についた。
俺が荷台が降りて、がくがくの腰に手をやった。すっと背伸びしてると、男はガメルと積荷の林檎をわたしてきた。
すると、指さして通りの奥を指さした。
「この先に冒険者の宿がある。羽ばたきの宿と言って、マスターはモーゼフという。そこで冒険者登録するといい。」
「ああ、すまない。ありがとな」
俺はガメルと林檎を貰うと、男にペコリと頭を下げた。
「幸運をいのってるよ。」
俺は羽ばたきの宿に向かった。引き戸から中が覗える。中ではマスターらしき人と数人の人がいた。
俺は中にはいった。
「いらっしゃい。冒険者の方かな?」
「まだ、冒険者にはなってない。登録をしたいんだが…」
「おお、登録者の人か。ならここにサインと年齢をかいてくれるかな?」
恰幅のいいおじさんが親切そうにニコニコしながら、紙とペンを寄こしてきた。
どうやら、このヨーゼフという人もナイトメアは見慣れているんだろう。
俺は紙に名前を書いた。年齢も付け加えて。
ヨーゼフはその紙を見て、ふんふんと頷いて。
「ニケ・ノア。18歳か…よろしく頼むよ。」
「すまないが、聞きたいことがあるんだ。いいか?」
「なんだい?」
「ここらへんに、ルネ・ノアとかいう女見なかったか?同じナイトメアなんだが…」
「ナイトメア?いや、それなら何人か見かけたが、ルネというなまえじゃなかったな?」
「そうか、あと、俺は5つに別れた道を探してるんだが」
「5つの道…それは冒険者の諸君に聞かないとわからないな」
「そうか…」
「ルネという子を探してるのか?よかったら当たってみるが。」
「頼む、昔誘拐されてそれ以来あってなくてな。この辺で過去に起きた誘拐犯の話はなにかないか?」
「誘拐……そういうの珍しくないからな。そうだな…この辺でおきた誘拐事件では人買いとか、金銭目当ての誘拐とかだな。最近は聞かないな…」
「そうか。ありがとう」
俺はそのままカウンターのスツールに腰掛けて、先ほどの林檎を齧り付いた。甘い果汁が口に広がる。
「君、人探し?」
いきなり後ろから声をかけられ、俺はゆっくりそっちを振り返った。
腕を組んだ年の近い男がニコニコしながら話しかけてきた、頭には角が生えている。
「お前、ナイトメア?」
俺がそう言うと、男は肩を寄せ上げて。
「お前もナイトメアだろ?なんだ、珍しい?話し聞こえてたけど、ナイトメアの女の人探してるって?」
「…ああ」
「どんな子?俺で良かったら俺の知り合いネットワークで探してあげてもいいよ♪」
「どんなって…年齢は俺と同じ18歳で、同じ髪と目と肌の色してる…」
「へー、むっきむっきなおねいさんじゃないよね?」
「知らない。」
「男と女じゃ女のほうが華奢だから、普通の体系かな?」
「知らない」
男は俺の姿見て男だと思ったらしい、確かに俺は性別は女だが、小さい頃はルネと似ていたが、ばばぁのところで体鍛えてるうちに、身長は高く、筋肉質で、声は低くなり、胸は真っ平らだ。ナイトメアの姿も馬鹿にされたが、村では男と馬鹿にされていた。
「知らないって、ルネとかいう子といつ逸れたの?」
男はなれなれしく横に座ってきた。
いままでこういうタイプはいなかったので俺は身を引いた。やけに積極的だなと思った。
「12年前…俺が6歳の時だ。」
「さっき誘拐とかいってたけど。12年もたってるんだね。うーん…」
男はしばし考えて、後ろを振り返り。
「ねぇ、ねぇ、皆。12年前に誘拐事件て、なんか話題になった?」
少し離れたテーブルに3人の男女がこっち見て。
「さぁ、12年前とかいっても俺も小さいな…覚えてない」
「うーん、その頃私村に引き篭っていたから」
「俺の記憶ではキュドラ街道である誘拐犯がでると聞いたが、とっくに冒険者にと捕まったと聞いてるが?」
街道の近く、誘拐犯。俺はおもわず聞き返した。
「それは5つの道が分かれてる街道か?」
男は考えて思い直し。
「そうだった気がするな。といってもこの街から随分離れた場所にある街道だがな…」
「何?その事件解決してるの?」
「ルネはどうなった?その誘拐犯は今何処に?」
「とっくに捕まって今牢の中じゃね?」
俺はしばらく考えた。
「よし、そこの牢に行く。場所を教えて欲しい。」
「ん?探しに行くの?といってもその牢獄遠いぞ?」
俺は、頷く。
「教えるのは構わないけど?簡単に通してくれるとは思わないけが?」

俺は4人からその投獄された場所を聴きだして、その街に向かった。
後ろからなぜかその4人がついて来たが、別に一緒に旅するわけじゃなく目的地まで付いた。
4人はそれぞればらばらになり、依頼をこなしてるように見えた。一人だけ、俺の後をついて来たナイトメアの男がいたが。
俺は無視して刑務所に尋ねた。
警備兵は事の事情を聞いて資料を引っ張り出して、こういった。
「悪いが、その罪人は皆死んだ。死因は病死だ」
「そんな、だったら誘拐された子供について何かわからないか?」
「うーん、といわれてもね。一人が口を割ったがそれぞれ違うとこの人買いにわたしちまったらしい。多くの子供や大人を誘拐しすぎてどこに誰とかわからないといってたと書いてあるが?」
「そんな……」
ここで手がかりがゼロになった。俺が立ちすくんでると、ナイトメアの男がポンと肩たたいて。「大丈夫、見つかるよ」と言ってくれた。

帰り道、男が
「君、暫く俺達の仲間になんない?」
と聞いてきた。俺は振り返った。
「仲間に?」
「ルネさん探すの手伝おうか?」
「……」
「大丈夫。きっと見つかるから」
「なんで、俺に?」
「俺も昔、君みたいに弄れてたから」
「誰が弄れてるだ。」
俺はそっぽを向いたが、しばらくして。
「考えておく」
と、言って宿に泊まりに行った。

その夜、考えた、一人探すより、誰かと組んで探したほうがいいんじゃないかと、俺は暫く考えて外をぼんやりと見てると、今日話しかけてきたナイトメアが走っていくのが見えた。
何か様子がおかしいのでその後を追いかけた。
すると、街の墓地に死体が3つ運ばれてきていた。顔を見ればわかる、あの仲間の遺体だった。
「どうしてこんな…」
男は泣き崩れていた。
「強い蛮族に出くわしたんだろう」
「こんなのって、ありかよ、俺が一緒について行っていれば…こんなこと」
そんなこといっても、死体がひとつ増えただけで終わるだろう。
と、俺は思った。俺は男の肩に手をおいた。
だが、男は手を払いのけて「お前について行くんじゃなかった」と、呟いた。

次の日、俺はそのナイトメアに会いに行った。遺体を埋葬した後で。ナイトメアは旅の準備をしていた。
「もう、旅にでるのか?」
「こいつらの故郷に、彼らが死んだこと家族に伝えに行くんだ。ついてくるなよ?どうせ、泣いて責められるだけだ。」
男は荷物をまとめると出ていこうとした。
俺は、「おい」と呼び止めて。
「その旅が終わったら。今度は俺を旅に誘いにこい。俺は姉を探して見つけ出してるから」
「ああ、そうだな…OKしてくれたのか?」
「俺の名前はニケ・ノアだ」
俺は男に手を差し出した。男も手を握って握手して。
「ヴァン・アルベールだ。またな?」
そう言って、旅に出ていった。

俺は地図を開いた。まだ探してない街や村はある。きっとルネを見つけ出してやると、俺は街に記しをつけ。ルネの行方を片っ端から探すことにした。
俺は一人旅は暫く続くことになる。