ヴァンの旅 03

あれから年月は過ぎ、晩は今年18歳を迎えていた。
冒険者としてそれなりに名前が知られている、もう一人前だった。
だが、相変わらず、ヴァンは女の人をナンパしては振られる日々を送っていた。
仲間の間で勝手に通名をつけられた「モテない牛」という、恥ずかしい名前だった、最初は恥ずかしかったが、今じゃ逆に誇らしいとさえ思っていた。
消して誇れるようなことじゃなかったが。

今仲間とマーガレットの街にいる、丁度いい依頼をまっているのだが、なかなかいいものが無くて皆で食事しながら待っていた。
「ああ、女の子女の子来い。来い。次は入って来た子に俺声をかける!!」
「どうせ、あしらわれるのがオチだぞ、お前ナンパ下手すぎる。逆にうざいんだよな」
アントニオがフォークでソーセージをつつきながら、こちらを皮肉たっぷりに言ってくる。この人の皮肉にはもう慣れていた。
「はいはい、どうせ、俺ナンパ下手ですよ」
「残念なナンパの仕方だよな、毎回思うが」
「あれね、ヴァン君軽いのよね?」
クスクスと笑うリサ。
「ナンパが軽いなら、いっその事、重くしてみてはどうだ?」
「あー、クライヴ馬鹿じゃね?そんな口説き耐えられるかよ」
「重い口説きってどんなんだよ」
クライヴがバカまじめに言ってくるので二人はほとほと呆れた。
「ま、次に入ってくる奴に絶対、ナンパしろよ。」
「次は女の人だ。賭けてもいいよ?」
「じゃ俺、男に一票。男こい、男」
「私、女の子来ると思うわ」
「では、男の人が来ると賭けよう。」
「負けた奴、奢れよこの御飯」
みんなでやいのやいの言ってると、誰か近寄ってくるのがわかった。
中に入ってきたのはスラっと高い背のナイトメアで、整った顔で凛々しい感じの強そうな人だつた。
「男だな」
「ちっ男か…」
「え?そうなの?女の子じゃないの?」
「男ですね、あれは…」
ヴァンはつまらないと肩を落とした。
「よし、リサとヴァンの奢りだな。ヴァン、お前次入って来た奴に声かけるんだろ?かけてこいよ?」
「えー、なんで男の人に声かけないといけないの?嫌だよ」
「罰ゲームだ、行って来い」
向こうの方で冒険者登録してる、男を見ながら、いつ声をかけようか機会を窺う。向こうのほうでマスターと何か話をしているので、耳を済まして聞いた。
「ニケ・ノア。18歳か…よろしく頼むよ。」
「すまないが、聞きたいことがあるんだ。いいか?」
「なんだい?」
「ここらへんに、ルネ・ノアとかいう女見なかったか?同じナイトメアなんだが…」
「ナイトメア?いや、それなら何人か見かけたが、ルネというなまえじゃなかったな?」
「そうか、あと、俺は5つに別れた道を探してるんだが」
「5つの道…それは冒険者の諸君に聞かないとわからないな」
(5つの道…キュドラ街道の事言ってるのかな?)
盗み聞きしながらそう思ってると、残念そうな顔してる。何か事情があるのだろうか?
「そうか…」
「ルネという子を探してるのか?よかったら当たってみるが。」
「頼む、昔誘拐されてそれ以来あってなくてな。この辺で過去に起きた誘拐犯の話はなにかないか?」
「誘拐……そういうの珍しくないからな。そうだな…この辺でおきた誘拐事件では人買いとか、金銭目当ての誘拐とかだな。最近は聞かないな…」
「そうか。ありがとう」
(へー、誘拐か。ちょっとそこらへん聞いてみようかな?)
ヴァンは白い肌のナイトメアの男に後ろから声をかけた。
「君、人探し?」
ゆっくり此方を振り返り、ジロジロ見てくる。
「お前、ナイトメア?」
ヴァンはは肩を寄せ上げて見せた。なんでバレたんだろう?と、自分の頭を触ったら、髪の毛から出ていたらしい。ああ、髪セットし直さないと…そう思いながら。
「お前もナイトメアだろ?なんだ、珍しい?話し聞こえてたけど、ナイトメアの女の人探してるって?」
「…ああ」
「どんな子?俺で良かったら俺の知り合いネットワークで探してあげてもいいよ♪」
「どんなって…年齢は俺と同じ18歳で、同じ髪と目と肌の色してる…」
「へー、むっきむっきなおねいさんじゃないよね?」
「知らない。」
知らないと、一発切りされた。
「男と女じゃ女のほうが華奢だから、普通の体系かな?」
「知らない」
めげずにまた聞いたが、それでも知らないとキッパリ言われる。とほほ、まぁ、小さい頃にいなくなったのかもしれないし。と、ヴァンは馴れ馴れしくこのニケとかマスターが呼んでた、男の横に座る。
「知らないって、ルネとかいう子といつ逸れたの?」
「12年前…俺が6歳の時だ。」
「さっき誘拐とかいってたけど。12年もたってるんだね。うーん…」
ヴァンはしばし考えて、後ろを振り返り。少なくても自分は12年前は村で楽しく過ごしていたから、わからない。仲間の皆に聞いてみた。
「ねぇ、ねぇ、皆。12年前に誘拐事件て、なんか話題になった?」
向こうのほうでアントニオが飲みかけのエールから口をはなして、首傾げて。
「さぁ、12年前とかいっても俺も小さいな…覚えてない」
「うーん、その頃私村に引き篭っていたから」
リサも頬に手を当てて考えるが、知らないらしい。
クライブがふと、思い出したかのように。
「私の記憶ではキュドラ街道である誘拐犯がでると聞いたが、とっくに冒険者にと捕まったと聞いてるが?」
ニケはクライヴに真剣な顔で聞き返す。
「それは5つの道が分かれてる街道か?」
クライヴも記憶をたどって、慎重に思い出す。
「そうだった気がするな。といってもこの街から随分離れた場所にある街道だがな…」
「何?その事件解決してるの?」
ヴァンは聞き返した。ニケも眉を潜めて。すこし語調を強めて。
「ルネはどうなった?その誘拐犯は今何処に?」
アントニオがさすがにそれは察しがつくだろうといった顔で。
「とっくに捕まって今牢の中じゃね?」
「よし、そこの牢に行く。場所を教えて欲しい。」
ニケは思い立ったらしく、クライヴに近寄りそう言った。
「ん?探しに行くのか?といってもその牢獄遠いぞ?」
ニケは、頷く。
「教えるのは構わないけど?簡単に通してくれるとは思わないけが?」
ニケがそれでも探しに行くようなのでクライブは。
「この街を道沿いに東に行くと監獄の街コスタミルがある。ここらへんので犯罪を犯した大罪人は皆そこに収容される。刑務所の中に入るには紹介書がないと入れないと思うぞ?」
「わかった。紹介状だな。どうやって手に入れればいいんだ?」
「冒険者でそれなりに有名ならすぐに書いてくれるだろう。」
「あら、でも。大事な事だから、事情話せば警備兵さん話だけは聞いてくれると思うわよ?」
リサがきっと大丈夫と根拠無くいう。
「わかった。世話になったな。」
ニケはそう言って、出ていった。
「あいつ、大丈夫かな?俺心配なんだけど…」
「へー、心配ね」
「ついていくきなのか?」
「おいおい、どんだけお人好しなんだお前。ただ働きでそんなとこまで行く気か?」
「マスターさん、なんかコスタミル方面のなんか依頼ある?」
マスターは依頼表を見て。
「そういえば……こんな話があるな。ナイトメア狩りを行ってるヤツがいるらしく、ナイトメアの角がない状態で見つかるらしい。コスタミル周辺にまでその影響が気出てるらしいが…依頼料はいらないぞ。なんせ話だけだからなコスタミルで依頼を受けるんだな」
「え、じゃ、あの人危ないんじゃないか?」
「そうね…ヴァン君とは違って剥き出しで歩いてるみたいだし。」
「おいおい、それ、犯人にバレたらヴァンを殺されるんじゃねーか?あ、ヴァンを囮にすりゃそいつ捕まえられそうだな。」
「そんな危ないこと、ヴァンにさせるのか?」
「ええ?皆俺を守ってくれるよね?期待してるよ?」
そう言いながらみんなでニケの後を追った。案の定スタスタとそんな危険があるとは知らずに角剥き出しで歩いていた。

「あいつ、しかし足速いな」
街道を東に伸びるそこを歩きながら、ヴァンは呻いた。
「声かけるか?一緒に歩きませんかーって?」
「やめとけ、あいつ俺等警戒してるみたいだぞ?」
ニケはちらちらと此方を見ながら一定の感覚で移動している。
「ほんとだ、あれは警戒してるな」
「うーん、それにしても。可笑しいわね」
「なにが?」
リサが顎に手を当てて考えてるおもわず、聞き返した。
「だって、あの子。女の子よね?」
「はぁ?」
「無い無い、あんなムッキムッキな、胸真平らな、低い声、ありえねー」
「あの子が女の子だとすると、それは旅は女だとやりづらいから変装してるんだな」
「いやいや、あれは変装じゃない。あれ絶対男だ」
「あれだ、話に聞いたことがある、男と女両方もってるやつがいるらしい」
「整形してるのか?」
「あるいは化けてるのかもな男に」
「あら〜わたしの深読みしずぎかしら?女の子のような気がするわ、中性的な」
皆で口々に女だの男だの言ってたので、ニケがこっちを睨んできた。
「やっべ、聞かれたんじゃね?」
「凄い睨まれてる…」
「相当不服そうだから男の子だったのかしら?やっぱり」
「どちらでもいいんだがな…」
「ああ、でもああいう女の人もかっこいい感じでいいかもしれない」
「おめーは雑食だな!!」
ヴァンは達はそのままニケの後ろを一定の間隔で歩いた。
歩いて3日めになってやっと街が見えてきた。

コスタミルは高い石の城壁に囲まれていた。門の通行確認で並んでいるときにリサは、ふうと息を漏らして。
「前にもここ通ったけど、すごい重々しい感じよね。」
「いかにも収容してますという感じだったよな。街もなんか規律が強そうだったし…」
「ヴァン、どうした?」
「いや、なんか胸騒ぎがしてきたな…」
「私たちこれから聞き込みするけど、宿で待ってる?」
「いや、なんか、あの人についていってみようかな?あの事件に巻き込まれるのかもしれないし」
「俺は依頼を受けに行く。前金先に払っておくから行って来い」
「私も聞きこむが…街の中だ。襲われることはないだろう」
検問を通りすぎて、ヴァンはあとで落ち合うことを約束して、ニケのあとを付いて行った。
またニケがこっちを見てくるが特に気にしてるようには見えない。
留置所の前まできて警備兵に質問されている。
ヴァンはすっと横に立って。
「中にはりたいんだ、入れてくれ」
「いいや、ダメだ、見知らぬ者を簡単に通す訳にはいかない」
「わかった、ただ12年前にキュドラ街道でおきた、誘拐事件の犯人を探してるんだ。俺の姉さんがそいつらに誘拐されて、手がかりが欲しい」
「見張りのお兄さん。ここは取り計らってくれるだろ?この人被害者なんだし、知る権利はあると思うんだよね」
警備兵は「そこで待ってろ」と言って、見張りようの建物に入ると、中から資料を持ってきた。
「悪いが、その罪人は皆死んだ。死因は病死だ」
「そんな、だったら誘拐された子供について何かわからないか?」
「うーん、といわれてもね。一人が口を割ったがそれぞれ違うとこの人買いにわたしちまったらしい。多くの子供や大人を誘拐しすぎてどこに誰とかわからないといってたと書いてあるが?」
「そんな……」
ニケが立ちすくんだ、あまりにも悲しそうで辛い事実なので、ヴァンは同情した、手をさしのべて肩を叩くか一瞬迷ったが、ポンと叩いて。
「大丈夫、見つかるよ」
「………」
「もういいか?長居されたら困るんだ、だから帰るように」
警備兵がそう言って追い払う。
向こうも仕事だろうが、厳しいなと思いながら、ニケと二人で離れた。

帰り道、少し離れたとこを歩きながら、ヴァンはニケになんと言おうか迷ったが、あまりにも気の毒なので、なんとか手伝ってあげられないかと思った。後ろから声をかける
「君、暫く俺達の仲間になんない?」
ニケは振り返り、不思議そうな顔をした。
「仲間に?」
「ルネさん探すの手伝おうか?」
「……」
「大丈夫。きっと見つかるから」
「なんで、俺に?」
「俺も昔、君みたいに弄れてたから」
実際は弄れてはいなかったが、それが口実になりそうなので嘘をついた。
「誰が弄れてるだ。」
ニケはそっぽを向いたが、しばらくして。
「考えておく」
そう短くこたえた。それ以上は何も話すことがなく、黙って宿に向かった。

なぜかザワザワが取れなかった。胸騒ぎは大きくなる一方で、ヴァンは仲間は着たか?とマスターに聞いたら「来て依頼を受けたいといったので任せた。戻ってこないのか?」と聞いてくる。
部屋に戻って暫く転がっていた、ふと、胸もとに中に隠してある青玉の石を取り出した。淡く光っていた。こういう時は大抵身に危険が及びそうな時だった。
「まさか、俺ナイトメアだから狙われてる?」
角は隠しているのに、気が付かれたのであろうか?
だが、しばらくしてそうじゃないような気がしてきた。
また下の方に降りていくと、兵士が「また旅人がやられた今回は3人の冒険者で、ナイトメアじゃなかったが、手口は一緒だった」と話している。
「なぁ?それ、どんな冒険者?」
嫌な予感がして顔いを強張らせた。予想は外れてていて欲しい。
「ん?たしかルーンフォークと、エルフと人間だったが…なんだまだ仲間がいたのか?」
「それどこ?」
「今墓地に向かって運ばれてきてるが…」
「どっちの方角?」
北の方角の街の端っこだと言われて、ヴァンは宿から飛び出した。

「そんな事あるわけない、何かの冗談だ、あの人達強いんだ俺よりずっと…」
ヴァンは独りごと言いながら走った、外はもう暗い、後ろから走ってくる音がもう一つ聞こえた。
振り返るとニケがこっちについてくる。
ヴァンは構わず走って、共同墓地の中に入っていった。
目の前で牧師が祈りをあげていた。
運ばれてきた3人が寝かされている。顔に布がかけられていたが、それはもう、自分が知ってる人物なのが明らかだった、リサに被さってる布を捲り顔を見た。顔は安らかだった。
「どうしてこんな…」
ヴァンは涙が溢れてきた。後ろで墓守が
「強い蛮族に出くわしたんだろう」と話している。
「こんなのって、ありかよ、俺が一緒について行っていれば…こんなこと」
ニケがたどり着いて、暫く3人を見下ろして、ヴァンの肩に手を置いて来た。
だが、ヴァンはその手を払いのけて
「お前について行くんじゃなかった」
と、呟いた。

(許せねぇ、3人を殺した奴に復讐してやる…)

次の日簡単な葬儀が執り行われた。ほんとうに簡単な埋葬だったが、ヴァンは3人の墓に花を置いた。
「待ってろよ、俺、お前たちの仇とってくるから…」
離れたとこにニケの姿があった。

宿に戻り旅の準備していると、部屋を叩く音がした。扉は勝手に開けられて中にニケが入ってくる。
「もう、旅にでるのか?」
ニケはそう聞いてきた。
「こいつらの故郷に、彼らが死んだこと家族に伝えに行くんだ。ついてくるなよ?どうせ、泣いて責められるだけだ。」
ヴァンは荷物をまとめると出ていこうとした。
ニケは、「おい」と呼び止めて。
「その旅が終わったら。今度は俺を旅に誘いにこい。俺は姉を探して見つけ出してるから」
「ああ、そうだな…OKしてくれたのか?」
「俺の名前はニケ・ノアだ」
ニケはヴァンに手を差し出した。ヴァンも手を握って握手して。
「ヴァン・アルベールだ。またな?」
そう言って、ヴァンは部屋を出た。

ヴァンは宿の外に出ると、気持ちを打ち払っうかのように空を見た。
空は青かった。