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今日からお兄ちゃんはお仕事

 

 

  つい調子にのって、朝近くまで小説を書いてしまった。
  アルベルトは携帯電話が鳴る音で目が覚めた。
「はい!」
  電話に出たときはすでにしまったと思った。
  アルベルトはおじいちゃんの本屋で中学生の頃からアルバイトをしている。
  今日は本屋に行く日だったはずなのに、寝坊してしまった。
「おじいちゃん、ごめん。今からすぐそっちに行くね」
  電話を切って時計を確認する。
  おじいちゃんの本屋に行く時間には少しまだ時間がある。
  おじいちゃんは何か他の用事でかけたのかもしれない。

 ダイニングに降りていくと、今日もギルベルトがカップヌードルをすすっていた。
「兄ちゃん……」
  咎めるような口調になってなかったかと言えば嘘になる。
「トーストくらい焼けるでしょ? スープも作っておいたのに」
「仕事にすぐ行かなきゃいけないからあっためてる暇がない」
  つるつるとヌードルをすすり残り汁を飲みながらギルベルトがそう言った。
「そういや面接受かったんだっけ? おめでとう」
「コネだがな」
「黒狸おじさんところのドドン手伝うんでしょ? 朝から食べてて平気なの?」
「試食会なんて開発部が担当するだけだよ。昼にはドドンの弁当食うけど」
  DODONは従兄弟の黒狸がやっている弁当屋だ。ギルベルトは黒狸のコネで働く場所を見つけたと言っていた。
「じゃ、行ってくる」
  ギルベルトは小脇に新しい仕事用の鞄を1つ抱えてでかけてしまった。
  アルベルトは弁当を作るのにエプロンはいらないのだろうかと考えてしまった。まさかあの鞄の中身がエプロンと三角巾ということはあるまい。
  スープとパンを弁当に詰め込んで、おじいちゃんにすぐ行くと言った手前少し早めに出発することにした。
  自転車を発進させる前に近所のブサ猫のプシャがこっちを睨んでいることに気づいた。
「おはよう、プシャ」
  猫に向かって話しかける。
  プシャは大きな尻尾をばさばさとさせた。
「おはようアルベルト。今日はトマトのスープかい。こぼさないように注意するんだよ」
  だみ声でプシャはそう言った。
  昔ギルベルトに確認をとってみたが、この動物たちの声はアルベルトにしか聞こえていないようだ。
「わかった。気をつける。行ってくるね!」