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夢と現実の交差点

 

09

 暗闇の中、視界には砂利道しか見えなかった。
  それも一寸先は闇の中だ。
  ナオミはいつものように、その砂利道についた母親の車のタイヤ跡を追いかけていた。
  これを追いかけてもドヴァーラにはつかないとナオミは直感的に知っていた。
  この先にいるのが母親かも怪しい。
  それでも誘われるがままに、ナオミはその道を歩いていた。
  今日は連れ帰るファウストはいない。
  ナオミは延々と暗がりの中で、砂利道のタイヤ跡を追いかける。
  五差路にでた。タイヤの跡はそこで消えていた。
  ナオミはそれぞれ真っ暗に塗り込められた、先の見えない道の向こうを見ようとした。
  目を細める。光を凝縮しようとしても、視界はそれ以上明るくなる気配はない。
  どちらに進もうか選択に悩んだ。
  戻る、という選択肢もあるのだと思い後ろを振り返ると砂利道は消えていた。
  前を見ると五差路があるだけだった。
  こういう怪談、小さな頃友達たちが話していたなと思いながら、あの時の正解ルートはなんだったか考える。
  暗がりに浮かぶ道はどの道かを進めと促してる気がした。
  それでもナオミは進まなかった。
  進まなかった理由は特にあるわけではない。
  思考や感情、惰性のアドバイスを無視しながら、どうするべきか悩んだ。

 

 目覚まし時計を考えた人は天才だ。
  興味深い夢に埋没してしまうのを避けるのにも役立つ。
  灰色に薄明るい部屋の中で、止めた時計の長針を見下ろし、ナオミはエンドテーブルに目覚まし時計を戻した。
  髪の毛を梳かし、顔を洗う。
  クローゼットからおかしくない組み合わせを取り出す。
  ワンピース類が多いのは喜ばしいことだ。オシャレに気を使うのでないなら、組み合わせに悩まずに済む。
  今日はワインレッドのワンピースと黒いペチコートパンツを選んだ。
  織り目が荒く、分厚い布のザラついた手触りががナオミは好きだった。
  長い髪を本当はまとめてしまいたいのだが、おろしてるままのほうが可愛いと養父が言うのだから、言われたままにしている。
  車のクラクションが外で鳴った。
  今日の篠田はやたらせっかちだ。まだ約束の時間の20分も前だというのに。
  携帯電話を鞄に放り込んで出かけようとした。
  誰かから着信していたが、確認せずに放り込んだ。
  車に乗ってすぐ、ナオミは篠田に報告した。
「あの夢、ついに五差路までいきました」
「どの夢?」
  篠田はもうナオミの突飛な話題の振り方に対して動じることは少ない。
「お母さんの車を追いかける夢です」
「違うよ。君がそう思ってるだけで、誰かのタイヤの跡を追跡する夢だ」
  そんな注釈はいらない。
「五差路ってコロラヴィにもあるんですか?」
「コロラヴィどころか全国どこでも、海外にもあるだろうね」
  そう言って篠田は車を発進させた。
  山頂のカヴァリーノファミリーに向かう予定だったはずが、コロラヴィに向かって坂を下りだす。
「それで? どんな五差路か目印はあるの?」
「ないです」
  車は急にスピードが落ちた。
「ないなら探せないな」
「探してくれるんですか?」
「探したいんでしょ。手伝うよ」
  僕はこういう世にも奇妙なデートコースを愛してる。そう言える篠田はナオミと違う方向に変わっている。