06
フランカはベッドに座った。
シャルルはパスタとトマト缶を取り出しながら、その様子をちらりと見る。
さっき会ったばかりのシャルルのことを信頼しているのだろうか。
だとしたら世間知らずそのものじゃないか。
マグカップにインスタントコーヒーを入れて、カップが1つしかないことを思い出してスープボウルを出した。それにもインスタントコーヒーを入れる。
お湯をそそいでフランカにマグカップのほうを渡すと、フランカはシャルルを見上げた。
「あれ、マグカップ一つしかないの?」
「問題ないだろ。スープボウルがあるし」
「今度いっしょに選びにいこうよ!」
「すぐ追い出すのになんで買う必要がある?」
フランカは眉を寄せて「えー」と言った。えーとは何だ、こっちがえーと言いたい。
「俺はすけべ心を出しただけのお兄さん。ずっと面倒見る気なんてハナからない」
フランカのシーツを握る手に緊張が走るのがわかる。
「嫌なら帰れ。せいせいする」
「ここに居たい」
シャルルは答えない。そのまま背中を向けた。この少女に長く関わる気はない。
ラジオを聞きながら、シャルルはトマトソースのパスタを作った。
流行りの音楽がラジオから流れる。何度か聞いたことのある曲かもしれない。だけどまったく興味はない。
パスタを作って、ソーセージを刻む。
フライパンをかき混ぜて、ひっくり返す。
フランカをちらりと見ると、ぼやーとベッドの飢えでのんびりしている。
まるで人形じゃないかというくらい、喋らない。
トマトソースとチョリソのパスタをダイニングに並べる。
そんなつもりはまったくなかったが、久しぶりに女性といっしょのランチだ。
「どうして家出したんだ?」
食器を洗いながらシャルルはそう聞いてみる。
「うんざりしちゃって」
「それだけ?」
「うん」
表情に出したつもりはないが、シャルルは沈黙した。
食器の水をきる。
「今、私のこと馬鹿だと思ったでしょ」
「いらんとこだけ敏いな」
「私、これから自由に生きるの」
フランカは大きく伸びをして、ベッドに倒れこむ。
シャルルは食器に布巾をかける。
「自由に生きるのはけっこうだが、このままだとお前娼婦まっしぐらだぞ」
「シャルルがいるし、そんなことしないよ」
「俺の家に居ること自体娼婦初級者コースだ」
フランカはパスタをもぐもぐしたまま、首をかしげる。
シャルルは説明するつもりもなかったので、黙ってパスタを啜った。
午後七時、シャルルは仕事の仕度を始める。
「ちょっと仕事に行ってくる」
「どこへ?」
「内緒」
鞄を肩にかけるシャルルを見て、フランカはぴんときたかのようにこう言った。
「悪い仕事でしょ」
鼻の効く女だな。そう思ったがシャルルはそのまま玄関へ向かった。
振り返る。
「いい子で待ってるんだぞ」