07
シャルルはフランカの猛アタックに耐えかねて、引っ越しを検討していた。
***
数日前
「私、殺してやりたい相手がいるの」
唐突な少女のつぶやきに、シャルルはダイニングで新聞を読んでいる手を止めた。
「物騒な」
シャルルの口から飛び出した言葉は、殺し屋としては常識人すぎるほどまともな言葉だった。
ここ数日、家出少女の色香に騙されて部屋に泊めていた。
その家出少女――フランカを数日楽しんだら、そのまま追いだそうと思っていた。
フランカは三日目にしてシャルルの狭い部屋のどこに何があるかほぼ把握していたし、自由気ままに部屋の中を歩き回っていた。
ガサ入れが入った時のことを考えて仕事道具はジョルノに預けてある。そのことが幸いしたようだ。
今じゃフランカは流しの下に何があるかまで把握している。
「一人死ぬくらい何よ」
フランカはベッドの上でスプリングを軋ませて抗議する。
最初にシャルルが考えたことはベッドがダメにならないようにということ。次に考えまいと思ったけれどやはり考えたのはフランカのバストの揺れ方だった。
自然と視線をフランカのバストより下に落とす。新聞のほうへ落とさなかったのは、集中して読める気がしなかったからだ。
「そいつ殺してよ。あんた殺し屋なんでしょ?」
咄嗟のことだった。自分で動揺したのがシャルルにもわかる。
顔を上げなかったのは幸いだ。
シャルルの誤算は、フランカが異様に鼻の効くタイプだということを計算に入れてなかったことだ。
フランカはいたずらっこがからかう相手を見つけたときのような表情でシャルルのほうに小首をかしげた。
「内緒にしておくよ。あいつを殺してくれれば」
シャルルは胸中即座に嘘だと感じた。
アリスロッサもそう感じた。この子は頭が悪そうだ。少し都合の悪い状況になれば、あっさり口を割るような根性なしだろう。
「殺し方を教えてやるから自分で殺せ」
「本当!?」
「そしたら二人だけの秘密ができるだろ」
「そうだね。思いつかなかった」
シャルルは咄嗟に、自分が罪をかぶらず、フランカが戸惑うような方法を考えだしたつもりだった。
しかしフランカには実感がないのか、くりくりとあどけない瞳を興味深そうにしばたたかせるだけだった。
「本気か?」
まさかな。そう思ってシャルルは聞いた。
まさか、殺すということの意味を理解してないほど、子供なわけじゃあるまい。十五歳だ。十五歳でそんなこともわからないほど子供なわけがあるまい、と。
「本気だけど?」
それがどうしたの? とフランカは言った。
シャルルはダイニングテーブルから立ち上がると、ベッドに腰掛けてるフランカのところまで行った。
フランカの腕を掴むと、彼女が抗議する声も無視したままあ、彼女の荷物といっしょに外に放り出した。
「ちょっと!」
フランカの反論は聞かずに、扉を閉めて鍵をかける。
それから数日、シャルルはフランカのピンポン被害に遭っている。
彼女を泊めるという誤算をしたのはシャルルのほうだが、引っ越しを検討して突然の出費を覚悟しなければならない理由としてあまりに理不尽だと、シャルルは感じている。