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ロビーノの燕いびり

 

 とはいえ、アリスロッサを殺した燕のことをアリスロッサ自身が許したところで、どうにかなる事態でもなかった。
  中でも仕事の相棒のロビーノは完璧に怒り狂っていた。
  当然といえば当然だ。
  アリスロッサは仕事のパートナーでもあり、ロビーノのずっとお熱な相手でもあったわけなのだから。
  仮にアリスロッサが生きていて、ロビーノに燕を殺さないでほしいとお願いしたところでロビーノは燕を殺してしまうだろう。
  アリスロッサが燕の死を望んでない。喜ばないと言ったところで
  ロビーノに通じるわけもなかった。

 テレビでは謎の連続殺人とメッセージカードの人物との関係性について報道している。ロビーノは電源を切る。
  ロビーノは殺る気満々に商売道具のトランプをコートに仕舞うと、それをいつでも抜き出せる状態にして隠れ家を出た。
  ロビーノは2ミリ以下の厚みのものを刃物に変える異能が使える。
  ロビーノにとってトランプカードは持ち歩き簡単な刃物のようなものだ。

 アリスロッサが殺され、バティステッラを見逃した今、燕が狙うのはフランカのみ……という考えは、あまりに燕を馬鹿にした考えだったようだ。
  燕の目的は徹頭徹尾、いびってくれたロビーノを苦しめること。
  ロビーノのせいでアリスロッサは死に、
  ロビーノのせいでサシャの奥さんは狙われ、
  ロビーノのせいで罪もないリチェ国民が殺されてると思わせること。
  先ほどのニュースでも報道していた。
  謎の連続殺人鬼の残したメッセージカードには「ロビーノ出てこい」とだけ書かれている。
「このロビーノとはどの人物のことでしょう?」
「ケルベロスはロビーノとこの殺人鬼の関連性を捜査中の模様」
  ロビーノは目的地も告げずに出てこいとだけ書かれたメッセージカードと、次々に自分へのあてつけのように殺されていく一般市民への八つ当たりに怒りが募っていた。
  今のロビーノは話しかけづらい。
  アリスロッサですらそう感じる。
  「よぉ、トム。久しぶりだな」
  そう言ってロビーノに話しかけた男がいた。
  ロビーノは振り返る。トムとロビーノに呼びかけたのは、シャルルだ。
「やあハンス。君こそ久しぶり」
  ややブチ切れる寸前の表情でロビーノは偽名を使って返事をする。
  一触即発になりそうなムードだ。
  アリスロッサは二人をそっとつけて歩き出した。