兪華と紡紡
「あなたはすべての女とうまくいかない」
ドヴァーラの占い師は四柱推命を見て兪華にそう言った。
あの女も、その女も、どの女もその運命どおりすぐに縁が切れた。あっちの女もこっちの女もつまみ食いしてみたが、すぐに失望して離れていった。
そのたびに紡紡のところに行った。
そこまで仕方のない男ならば我侭な女くらいがお似合いだろうと思ったからだ。
だけどどこかで我侭な紡紡に苛々していたし、それ以上に紡紡のことが好きすぎて似た女ばっかり抱いたり口説いたりした。
本当に手に入らない高嶺の花だなんて思っちゃいなかったが、高値の花だった。つまり買えた瞬間それへの執着は失うことも兪華は知っていた。
紡紡もそれを知っていたようで、自分の価値は高いということにしかないと思っていた。だからお高くとまっていたし、そういい女でもないのに高く売ろうとした。
値の届かない女など誰も欲しがるわけもないのに、自分が最後まで売れ残るほどの高い値段をわざと紡紡は設定した。
「寂しい」
そう言って紡紡の背中にべったりとくっついたとき、珍しく拒絶されなかったことがあった。そのかわりに
「今日何回その言葉、何人に言ってきたの?」
と聞き返された。
何人か複数の女の顔が浮かんだ。そして「紡紡だけだよ」と嘘をついた。
「あんたの嘘は見え透いてるし、あんたの寂しいほど安売りバーゲンな言葉ってないのよ。あんたの寂しいは安すぎる」
当たり前だ。寂しいを高くして売れるわけもないだろう。そんな薄っぺらな不幸はそこらへんにたくさん転がってるから、自分を低く低く売らなきゃ寂しさなんて売れるわけもない。そしてたいていそういうとき、誰でもいいから寂しさを埋めてほしいと思っている。本当に誰でもいいのだ、愛してる相手などそのあと見つけるでも構わないのだから。
「紡紡は寂しくないの? 幼稚園の頃みたいにモテテたわけでもないでしょう。僕みたいな愛情のない男と好きでもない縁組させられてさ」
紡紡の首筋にそっとキスしてそう言った。彼女は珍しく抵抗しなかった。
「私の寂しいは最高に高いのよ。高すぎて誰も買えないの」
そう言った紡紡の寂しさは、本当に最高の高値のつく寂しさな気がした。こんな寂しさ、誰も埋められないし、買える人もいないだろう。
兪華の誰にでも寄り添って寂しいと言う言葉と、彼女の寂しいは重さが全然違う。
「私の寂しいは最高に高いのよ。だって私自身はただの我侭な女だから、そんな価値なんてないのだから。オプションをたくさんたくさんつけて、そして最後に売れない寂しいという誇りを飾りに売るしかないのよ」
「紡紡、そんなことないよ」
「帰って。あと二度とキスしないで」
アップにした髪から簪を引き抜き、紡紡は勉強を再会した。
彼女が少しだけ自分に心を開いてくれたかもしれないと思ったのはその時だけだった。
彼女の寂しいは最高に高値だった。
埃をかぶった、かつて最高に高級だった寂しいが今もショウウィンドウで売れ残っている。