ヨシュアと僕は植物園に出かけた。
あの事件から2ヶ月くらいが経過して、綺麗な白骨でもなければ、綺麗な死体でもない、腐敗しかけたかつての仲間を見下ろしつつ、現場検証を行なった。
「現場は混乱していたわけではなさそうだな」
「敵と味方がしっかり分かれていた証拠だと思う」
「ってことは全員13番隊隊長の言葉に従って行動したってことだな」
「だろうね」
関係ないけれども、今は七月だ。あたりの気温は高く、僕の周りからは腐敗臭がともかくする。僕は眉をしかめた。
「アスセナの死体だけここでは見つからなかったんだよ」
「ってことは、アスセナは別行動していたってことか?」
「じゃあどうして13番隊隊長が『アスセナは俺の目の前で死んだ』なんて言うわけ? ここの指揮官は13番隊隊長じゃないの?」
「ここを副隊長が管轄していて、隊長はアスセナと別行動をしていたということは考えられないか? あるいは、13番隊長が何か隠しているか」
「あの人が何か隠すわけがないだろう。よしんば隠していたとしたら、何をだよ?」
「たとえば、アスセナは生きたままどこかに拘束されているとか」
僕は怪訝に眉を寄せる。
「13番隊隊長が犯人ならば、アスセナを生かしておく理由なんてないだろ?」
「わかんねぇぜ。あいつ抜群のプロポーションしてたし、どこかに閉じこめてあんなことやこんなことを――」
「――するわけがない」
遮って僕はそう言った。馬鹿馬鹿しい。そんなスケベ心を出していたらいつ寝首を掻かれても文句は言えないぞ。なんせ相手はアスセナなんだからな。
だけどそれとは別に、僕はアスセナに生きていてほしいとどこかで願っている。どんな形であってもいい、君が生きていれば、過去の清算なんていつだってできるのだから。
「ともかく、13番隊隊長が犯人という説はなくなってないにしろ、かなり薄いよ」
「いやーどうだろうなあ。俺はあいつが一番怪しいと思うんだけれども」
「ヨシュアは13番隊隊長のこと詳しく知ってるの?」
「別にそんな詳しく知ってるわけじゃあないけれどもさ、なんともいえず胡散臭いじゃねぇか。あの男」
言われてみて考えてみたけれども、うちのアズッロ隊長のほうがブルウゲイルの隊長ですと言われて信じない人が多そうな気がした。
「死体といえば……」
周囲を見渡し、ヨシュアが言った。
「どれがディスクレイト憑きの死体だ?」
言われて周囲を見渡す。銃士隊の死体はあるのに、敵であったはずの人間の死体がどこにもない。
「13番隊隊長だけが帰ってきたってことは、隊長がとどめを刺したってことだろ?」
「そうなるね」
「なのに死体がないのはおかしいぜ」
僕は言われて沈黙する。別に僕が13番隊隊長を弁護する義理なんてどこにもないのだけれども、じゃあ彼が犯人だと決め付けているこのヨシュアが正しいとも限らない。
結局腐敗臭のきつい空間から一刻も離れたかった僕は、何もその場では反論せずに太陽の都へと戻った。
アズッロ隊長に「13番隊隊長ってどんな人ですか?」と聞くと一言、「ちょうすけべやろう」と答えが返ってきた。
うん、僕はとても悪い想像をしたよ?
植物園のどこかにアスセナが監禁されていて、あそこに生えてるうねうねした触手とかにいじめさせてる13番隊隊長とかを想像したんだ。想像は0.3秒後に無理やり消したけれども、僕の中には妙な気持ちが広がる。
アスセナの死体がなく、ディスクレイト憑きの死体もなく、帰ってきたのは13番隊隊長だけ。
このキーワードをどう結びつければ辻褄が合うんだろう。
|