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なんどもなんどでもきみをあいさせ て

ラーラは久しぶりに月の都にいた。アスセナの銃を抱えて、古びた教会の中でしゃがみこむ。
「ミッチェルさんは私よりもアスセナが好きなんだな」
寂しくなって呟いた。途方もない寂寞感をごまかすように、お腹が鳴る。お弁当に持ってきていたワッフルを齧った。
「そのワッフル、俺によこしな」
声がして、そっちのほうを見た。教会の中で寝ていたらしい、黒髪に眼帯、ジーンズ姿の男がこちらに歩いてくる。
「エニグマ…」
「よぉ。お久しぶり、小鳥ちゃん。いい具合に熟してきやがったじゃねぇか」
ぺっ、と唾を吐き捨ててエニグマは言った。
「お前、もうここには来ないとか言ってたよな? たしかミッチェルとかいう軟弱な銃士のこと好きになったとかなんとか」
「だったら? エニグマさんは相変わらず女なら誰でもいいんでしょ?」
「大当たり。死体でもかまわねぇぜ。ちょうどいいから抱かせろよ、腹は切り刻んでやるから妊娠は心配しなくていいぞ」
バタフライナイフをポケットから引き抜いたエニグマを見て、普段なら銃剣を構えるラーラが何もしないので、エニグマは拍子抜けしたように肩を落とした。
「失恋した女ってだいたいヒス起こすかやけっぱちになって別の男のところにくるよな。どうした? 俺にやさーしく抱いてほしいの? ん?」
「エニグマさんに優しく女を抱くなんて技量があると思えない」
「ああ、だいたい強姦、たまに殺人、よくやるのは強姦殺人未遂。お前とは何回未遂したっけ? そろそろ腹にナイフくらい刺させろよ」
「断る。エニグマさんはセックスと殺人の違いを認識したほうがいい」
「どっちも興奮するってことに変わりねぇだろ? なあこれでも俺はお前のことちょっとは気になってるんだぜ? 魅力的なおっぱいと魅力的なおしりと、口があって突っ込む穴がある。顔はどうでもいいな、性格もどうでもいい、でもその減らず口はいつか塞いでやりたいと思っていた」
ぐっと頬を乱暴に掴まれて上を向かされた。昏く濁った目がラーラを見つめる。
「どうしてほしいんだ? 両手を縛って、監禁されたい? それとも大好きな男の前で強姦されたい? それとも殺して内臓を引きずりだされたい? 望まれたとおりの犯し方してやるぜ」
エニグマはひび割れた唇をぺろりと赤い舌で舐めて、ラーラに口付けた。ぴちゃり、ぴちゃりと音をさせて口の中を蹂躙する男に不思議と抵抗はしなかった。
エニグマはラーラを床に引き倒すと、服の背中の部分をバタフライナイフで床に固定し、服の前の部分を引きちぎると、やるせない顔で言った。
「お前さ、殺されるために俺のところにきたんだろう?」
「…………」
「俺を自殺の道具に使うんじゃねぇよ。ムカツク」
乱暴にラーラの乳房を掴むと、爪を立てて赤い裂傷を残し、エニグマは心底苛ついた顔をした。
「据え膳って俺は食う主義だね。孕んでもお前が悪い」
ラーラはやはりこの男はただで殺してくれるような親切な男ではないということを知ってうんざりしたような顔をした。死ぬまでに何回犯されて死んでから何回犯されるんだろう。死んでからのやつはカウントしなくてもいいが、死ぬ前のは面倒だなと思った。
何をしているのだろう、自分は。
目の端にさっきまで食べていたワッフルが目に入ったが、妙に鈍い威圧感が下肢に走り、しばらくは空腹を忘れることに成功した。