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真実と終わり或るいは 戯言

この世界で大切なことは、何を信じるか、だ。
次の日、僕は銃士隊の正式な服に着替えるように言われて、その格好で謁見の間に連れて行かれた。
僕の顔はいつも以上に真っ青。まるでヴァンパイアじゃあないかってアズッロ隊長に言われたけれども、そんなのに笑って返せるほどの余裕はなかった。
僕など到底会うこともできないはずの偉い偉い、王様。太陽王といわれているホロウ陛下が僕の目の前にいる。僕は跪く姿勢のままから顔をあげられずにいる。
「顔をあげたまえ。ピサロくん」
ホロウ陛下にそう言われて顔をあげた。歳はアズッロ隊長と同じか、少し老けている程度だろうか。
「昨晩は夜遅くに事情聴取をして申し訳なかったね。君のところに泊まっていた女の子、アウィス・ラーラの姿を映したのはルーンの幻影だということがわかったよ」
あのあと僕は徹夜で事情聴取された。といっても、ラーラを探しにいって戻ってきたときには普通だったので、どうとも答えようがなく、結局は同じ質問に同じ答えを返すだけの問答が続いたわけだけれども。
「誰かが意図的に君をあの場から誘い出したようだね」
「それはその……察しはついているのですか?」
「目下捜索中といったところだよ。シードのほうにも頼んである、あちらも月の都をくまなく探しているよ」
シードというのは月の都の王様のことだ。王様ふたりが隊員総出で不法侵入者を探しているとなると、僕はその……クビ? いや、そんなことよりも、今はセレスティア大陸がセーナフィーリにぶつかるのを防ぐ方法を考えなくちゃ。
「とりあえず、民衆にはこのことを伏せておこうと思うゆえ、口外にせぬよう」
「でも、もしぶつかるようなことがあったら……被害が甚大になるのでは?」
「その前に首都に混乱が起きるほうが被害はでかくなるよ。ピサロくんにはそれが言いたかっただけだから、帰りたまえ」
ホロウ陛下は僕のことなんてどうでもいいといわんばかりにそう言うと謁見の間を去っていった。僕は内心ほっとしたような、焦るような気持ちを抱えたままその部屋をあとにした。
「ミッチェル! 大丈夫だった?」
部屋の外に待っていたアスセナが声をかけてきた。
「うーん、とりあえずクビにはならなかった」
「まああらかた終わってから改めてクビってところでしょうね」
アスセナ、それはたしかにそうだろうけれどもこのタイミングで言わないでよ。
「さて、ミッチェルがクビになってないことも確認したし、移動するわよ?」
「は? どこに」
「月の都、場所はバー・オーヴァフロゥ」
「昼間から酒場!?」
「あそこにすごくやばい情報が集まりやすいのよ。もう捜索はいってるかもしれないけれども、絶対調べられてない奴がひとりいるはずだから」
「誰だよ? やばい情報に詳しくて、絶対に調べられてない奴って」
アスセナは僕を振り返ると、片目を隠す仕草をした。
「……エニグマ?」
僕は嫌な気持ちになりながら聞くと、アスセナは頷く。
なんであいつとこんなところで縁があるのだろう。