「エニグマ! エニグマ!」
振り返って扉をどんどんと叩くと、今度こそ心底嫌そうな顔をしたエニグマが顔を出した。
「どうしたヘタレ。今度こそ犯されたいか?」
「ラーラがどこにいるか知らないか?」
「アウィスの奴がどこにいるか俺が知っていると思ったのか? 知っていたとしてもアスセナを選んだお前に教えると思うのか、馬鹿が」
「彼女の力が今必要なんだよ」
エニグマが僕を睨んでくる、僕は真剣な目でエニグマを見つめた。
しばし顔を突きあわせたまま、沈黙が続く。エニグマが観念したかのようにため息をついた。
「あいつは空歪みの塔だ」
「そこにいるんだな?」
「そこにいなかったら知らないけど、いればいいな」
扉を閉めようとしたエニグマに僕は声をかけた。
「エニグマ」
「あ?」
「ありがとう」
「ばーか。お前に一生懸命になってるそこのアスセナとかいう女にお礼言えよ」
乱暴に扉が閉まる。あいつも照れ隠しをすることなんてあるのだろうか。
僕たちは太陽の都のほうに戻り、そこから延々と丘の上にある空歪みの塔を目指した。
ホシゾラゴケで仄明るい塔の螺旋階段をあがっていくと、歌声が聞こえてきた。小鳥のさえずりかと思うようなハイトーンボイス、僕はこの軽やかな声をずっと聞きたかった。
屋上まであがると、バルコニーに腰掛けて足をぶらぶらさせた懐かしい姿がそこにあった。
「ラーラ」
呼んでみる。君は振り返ってくれるだろうか。一度は君を裏切った僕のために。
「……ミッチェルさん?」
ほら、振り返った。アスセナと同じ容姿なのに、まったく違う愛くるしい笑顔で。
「こんなところを教えたのはエニグマだな。まったく、私の最高の秘密基地だってのに。ミッチェルさんにも内緒のはずだったんだぞ」
ラーラはぷりぷりと怒りながらバルコニーから降りると、僕とアスセナの元にやってきた。
「ふたりは仲好くしている?」
「えっと……」
「仲好くしているわよ」
アスセナが困ったような笑顔を浮かべてラーラに言った。ラーラはほっとしたように、笑った。
「どうしたの? ふたりしてこんなところに来て」
「実はちょっと困ったことがあってね……」
ここでは正直に、ラーラに事情を説明した。するとラーラは快く協力してくれると言った。
「私、この大陸大好きだもの。守りたいよね」
空歪みの塔の階段をはだしで駆け下りていくラーラの後ろを、アスセナが少しおかしそうに笑いながら降りて行く。僕はその屋上から見える空を見上げた。
太陽の屈折のせいでちょっとだけ歪んだ空は、いつものように青かった。
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