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08

「リュウヤさんとヨータさんってどんな関係なんですか?」
  歩きながらヨータに聞くと、「オトモダチです」とヨータはあっさり言った。
「イケナイ関係にでも思えましたか?」
「意味がわかりません」
「ニタさんのそういう鈍いところ大好きデス」
  ヨータは低く呻いて、言った。
「俺が15歳のときから仕事もらったり、生活世話してもらったりしてるだけだよ」
「15歳で?」
「俺に名前をくれた女医サンが殺されたから、あいつが俺を引き取った」
  言葉すくなに説明された事実。ニタが沈黙していると、ヨータは言った。
「ニタさん、俺けっこう育ち悪いデス。お仕事はしっかりやるけれども、プライベートで会ったら逃げたほうがいいかも?」
「さっき助けてくれたじゃあないですか」
「金持ってそうだったから、恩売っておこうと思って」
「本当にそれだけですか?」
「スミマセン、あわよくばカラダも目当てです」
  ヨータは軽口を叩きつつ、地下へと続く階段を下りていった。
  そこは朱塗りの壁に黒檀の柱でできた、高級クラブだった。こんなスラムで高級バーにくるのはもちろんマフィアか非合法なことで稼いでいる人間だけだ。
  女をはべらせている男が数人いる中を突っ切って、ヨータは奥のソファに座っている男の前に立った。
  裾の長いビリジアンのローブを着た、三十代くらいの銀髪の男だった。
「誰? アンタ」
「ジャック=リオーネだろ?」
「名前を聞いているんだよ。ハーフムーンの坊や」
  ヨータは魔族と人間のハーフらしい。たしかに虹の気配はあまりしないが、耳は尖っている。ヨータは後ろにいたニタを親指で指差して言った。
「あんたにお客サマだよ、ニタさんって言うんだ」
「あなたがジャック=リオーネですか?」
「そうですよ、お嬢さん。こんなスラムの一角にある俺を訪ねてきてくれたんですか?」
  ジャックは慇懃な口調で口の端を歪めた。
「用件を聞きましょう」
「フェイトプレイトについてお聞きしたいことがありまして」
「占い? お嬢さん、占いのためにこんなところまできたの?」
「予言のシステムを作りたいんです」
  ニタの言った言葉に、ジャックは沈黙した。
「そんなことをしてどうする気だ?」
「未来のことがわかれば、未然に対策を練ることができます」
「そうすると未来がかわる。お嬢さんわかってないね、それは秩序を乱す行為なんだよ」
  ジャックはがんとして協力する様子が見られなかった。ニタは悲しそうな表情をして、ジャックを見た。
「そういう表情されても、俺は協力しない」
「お願いしても駄目ですか?」
「駄目だ。だいたい予言のシステムなんて作ったら、俺商売あがったりだし」
「ジャックさんの言うこともっともじゃねぇの? 予言のシステムなんて作ったら占い師たちはお飯食い上げだ」
  ヨータが隣からそう言った。彼はニタの手を引いて、元きた階段をあがっていく。階段をあがりきったところでヨータは言った。
「ありゃあ動きはしねぇな。ニタさんも諦めなよ」
  ニタが唇を噛んだのを一瞥して、ヨータは言う。
「未来なんて見えなくたっていいじゃん。今より悪いことが待ってたら悲しいキブンになるだけだぜ?」