それは月の綺麗なハロウィンの晩の警備をしていたときだ。

「ハローハワユ? 警備のオニーサン、寒い中ご苦労さんです」
  グリードは目を細めた。
  カボチャのかぶりものをした変質者が近づいてくる。
  へらへらと笑ってはいるものの、手には銀色の輝く刃物が見え隠れしている。
  グリードは静かに警棒をベルトから引きぬいた。
「パーティー会場に入る前に身分証明書を見せてもらおうか」
「無粋なこと言うなよォ? オニーサン、死にたくないだろ。俺だってパーティー楽しみたいんだよ」
  大仰に肩を竦める仕草、右手で弄んでいるナイフはかなり大ぶりだ。
  気付かれぬように重心を軸足に移動させながら、グリードはかぶりを振る。
「そうか。残念だがお引き取り願おう」
  カボチャ男はナイフを引きぬき、地面を蹴る。
  早い――!
  防御体制に移るまでそれほど遅れはとらなかったが、その瞬間カボチャ男は宙を舞った。
「オニーサンの悲鳴は何色かなぁあああああああ!!! ヒィイイイイイホオオオオウ!」
  振り下ろされる大ぶりの刃物。それを警棒で弾き飛ばす。
  カボチャ男は素早く地面に着地すると、グリードと間合いをとった。
「警棒だけで俺に勝とうってか?」
  こっちは刃物だぞと言いたげだ。まるで中学生だ。
「警棒だって手加減できなきゃ死ぬんだぞ。帰れ」
「いいじゃん、殺し愛ましょう。俺はあんたの肉に手をつっこむの考えるとちょっとぞくぞくするぞ」
  げんなりする発言には目を細めるだけで返事はしなかった。
「おい、聞けよ」
  カボチャ男は挑発にグリードがのらかなったことに機嫌を損ねる。
  長い間相手していたい奴ではない。
  一人で戦うのは危ないかもしれないが、大声を上げて近くにベアがいるとは限らない。
「じゃあ来いよ。叩き割ってやる」
  グリードは警棒を両手で構えた。
「ヤッていいってことだよな。いい悲鳴で鳴けよ、ヒャッハー!」
  今すぐ投げ出したい気持ちを押し殺し、切りかかってくるカボチャ男に集中する。
  ナイフが横切るのを見極め、避けた。
  カボチャ男が切りかかった瞬間、カボチャ――頭部を強打する。
  カボチャはぱこーんと間抜けな音を立てた。
「お……」
  カボチャ男の動きが脳震盪で止まる。
  続けざまに後頭部にもう一撃カボチャに食らわせた。
  カボチャ男はよたよたとしながら、後頭部を触って、カボチャのかぶりものをつけていてもわかるくらい動揺しているように見えた。
「おい、なんかカボチャにヒビ入った音したぞ?」
「言ったはずだ。手加減しなきゃ死ぬぞって」
「お前化けもんか。バケモンなんだな!?」
  失礼な。化物と言うならお前のほうが奇妙な姿をしているだろうに。
「よくわかんねーけれど、ハロウィンの秩序を乱すような奴は帰れ」
  次は頭を叩き割る。そう言わんばかりに警棒で空を切った。
「くそ、覚えてろよ」
  最後の言葉まで三流悪党だなと思いながら、こいつの名前を聞いておくべきかもしれないとグリードは考えた。
「覚えておいてやるよ。名前は?」
  ヒビの入ったカボチャはこちらを振り向き、首をかしげる。
「切り裂きカボチャ」
  そうしてカボチャ男は闇へと消えた。
  文字通り消えたのだ。跡形もなく。本当に化物だったのはあっちほうだ。

「ジャック・ザ・リパーとジャックオーランタンで切り裂きカボチャってすごいネーミングだな」
  気持ちの悪いカボチャだった。
  なんだったんだろと思いつつグリードは警備に戻った。

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