美しいシャルアンティレーゼに何か贈り物がしたいとジミーは思った。
ジミーは彼女のために詩を書いた。
しかし彼女は詩など興味などなかった。
ジミーは彼女のために服を仕立てた。
彼女は「こんな高価なものは」とやんわりと断った。
高価なものも素朴なものも受け取らない彼女に、ならば何が欲しいのかと質問してみた。
シャルアンティレーゼは屋敷の中に咲いている、雑草を指さした。
「セボリーを使ってお魚を料理したい」
「セボリーは修道で食することを禁止されているよ? シャルアンティレーゼ」
「ジミーはセボリーに罪があると思う? あれはおじいちゃんが好んで料理に使っていた葉っぱよ」
「セボリーに罪はないよ。あれはただの雑草だよ、そんなものでよかったら好きなだけ取って食べればいい。料理の仕方は知っているかい?」
「白ワインを貸してください。あと、特別な日に使う黒胡椒も」
「どうぞ。好きに使えばいい」
シャルアンティレーゼは催淫作用があるとして修道院から禁止されていたセボリーを摘み、屋敷の調理台を借りて勝手に料理を始めた。
ビクの中にある魚を取り出し捌き、胡椒挽いて塩といっしょに魚に下味をつけた。
ジミーはそれを見ながら、隣でパンを切って、さっき買ったばかりの牛乳と作りたてのバターをコップや皿に盛りつけた。
シャルアンティレーゼの作った魚料理を食べて、彼女は食卓テーブルに寄りかかって眠ってしまった。
シャルアンティレーゼの細い体を抱き上げて、寝室へと運んだ。
まだ昼下がりの寝室はそこまで暗くなかった。シャルアンティレーゼをベッドに乗せると、彼女は小さく声をあげて寝返りをうった。
きっと今、手を出せば彼女と結婚できるのだろうと思った。
貴族の家にのこのこやってきて、昼寝をした村娘が無事に家に帰れるばかりとは限らない。ましてや悪魔の屋敷で無防備に寝ている処女など、襲ってくれと言っているようなものだ。
シャルアンティレーゼの胸元にかかった髪の毛をどかし、ジミーはシャルアンティレーゼを真上から見つめた。
ブラウンのまつ毛から黒い影ができていた。赤いぷっくりとした唇は異国の童話に出てくる姫君のようだと感じた。
彼女の呼吸に合わせて胸が上下するのを、じっと見つめて、彼女の唇に唇をよせたくなった。
しばし見つめていた。彼女の乳房は甘そうだった。
喉がこくりと鳴り、そして唐突にバツが悪くなってジミーはシャルアンティレーゼの上から退いた。
(愛してる人にそんなことをしたらいけない。)
こんなときにどうすればいいのか、ジミーは知らない。
ジミーはシャルアンティレーゼに感じる欲望の始末の仕方も、狡い気持ちへの決着のつけかたも知らずにその午後悶々と過ごした。
夜になりかける頃、シャルアンティレーゼは目覚めたが、ジミーが近くで読書をしているのを見てホッとしたようだった。
「ホッとするのは早いぞ。今から襲うかもしれないのに」
呆れたようにジミーはそう呟く。シャルアンティレーゼは困ったように笑った。
「正直、ワインで酔わせてセボリーで火照らせて言葉でたぶらかして抱いてしまいたいところだよ」
「それは困るわ。だって私、そういうことをしたくてここに来ているわけではないのだもの」
「誰だってそうだ。誰だってそんなつもりじゃあないと言いながら、そんなつもりだよ」
シャルアンティレーゼが警戒するように少し沈黙するのがわかった。バツが悪そうにジミーは黙りこむ。
「君が望んでいないなら、俺は頭を冷やしてくるよ」
ジミーは扉を開けて外に出て、夜の空気を胸いっぱいに吸い込んだ。
夜よ、夜よ。迷いと過ちに満ちた夜よ――。
こんなとき、どうして自分は過ちを犯してしまわないのか。どうかしていたを理由にシャルアンティレーゼを欲しいがままにしてしまわないのか。
彼女の名前を呟いた。
シャルアンティレーゼ――。
恋人でもないのにその響きはすこぶる甘かった。
TOP |