ジミーは眼を開いた。
  黒かった視界に、やわらかい陽射しが差し込み、思わず目を細める。
青い未成熟の苹果が目に入る。
  苹果の葉陰から落ちた一筋の光は、ジミーのてのひらへと落ちていた。
  思わず、それを手で握り締める。
「気がついた?」
  隣から女の声がした。
  長い長い夢の果てに、彼女のところへ戻ってきたのだと知った。
「シャルアンティレーゼ」
  彼女の名前を呼ぶ。
  シャルアンティレーゼはこちらにはにかむように笑った。
「長い長い夢を見てた」
  ジミーは起き上がり、シャルアンティレーゼのほうを向いた。
  シャルアンティレーゼは仕立てのよさそうなタフタのドレスを着ていた。頭にツバの広い帽子をかぶっていた。
  田舎娘の頃とは少し違う姿で、彼女の雰囲気も以前よりずっと落ち着いていると感じた。
「どんな夢かしら?」
「シャルアンティレーゼ以外の女の人と、子供を育てたり、苦楽をともにしたり、死んでまた生まれて、そんな夢」
「それでどうだった?」
「お腹がいっぱいになったよ。夢なら覚めてほしくなかった」
  どの女性のことも愛していた。どの子供のことも愛していた。
  どの親のことも愛していた。どの故郷も愛していた。
  今となっては記憶に断片的にしか残っていないその愛しい日々の思い出を、丹念に思い出そうとした。
  しかし最早それは夢でしかなく、目の前にいるシャルアンティレーゼ以上のリアリティを持たなかった。
「もう一度寝てもいいのよ? ジミー」
「いいや。今はもう俺に夢は語りかけはしない。語りかけているのは君だよ、シャルアンティレーゼ」
  シャルアンティレーゼの顎を持ち上げて、そっと唇を重ねた。
  間近でシャルアンティレーゼの色濃い睫毛の陰が目に入った。何度も恋をした瞳だ。
「今も愛してる」
  確かめるようにそう言った言葉に、シャルアンティレーゼは笑った。
「おかしな人ね。ずっと昔からあなたはそう言ってたわ」
  我ながらシャルアンティレーゼのことになると必死すぎると思い、ジミーは笑った。
  シャルアンティレーゼの髪の毛が夏の風に揺れていた。

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