「おい、カボチャ」
グリードにそう呼ばれて、ジミーはまずい! と思った。
「カボチャ、お前ずっと前に貸したCDまだ返してないだろ。いい加減返せよ」
「あ、ああ……あれな。今度返すよ」
手に汗握りながらジミーはじりじりと後退る。
その分、グリードが詰め寄ってきた。
「この前もそう言っただろ。まさか私物化したり又貸ししたりしてないだろうな?」
「してねえよ、ただ……」
「ただ?」
うっかりアメリーのペットのペンギンが踏んで割ってしまったのだ。
「ただ、気に入ってて……」
思わず口からこぼれた嘘。
グリードがちょこっと上機嫌になったのがわかった。
「お前にもあの歌詞のよさがわかるのか」
「ギターの音が気に入ってな」
噛み合ったような噛み合わなかったような感想を言い合い、近日中になんとかせねばと思った。
「でも、そろそろ俺も聞きたいんだよ。返してくれよ、なあ」
グリードの大切なCDを割ってしまったことは悪いと思っているが、ペンギンが割ったのだからジミー自身が悪いわけじゃあない。
しかし困った。あのCDは見つけるのが難しそうだ。
「明日、タワレコ前集合だ」
「タワレコ? いいけど」
「午後三時集合だぞ。いいな」
「ああ、わかった」
午後三時までにタワーレコードで探して見つからなかったら、正直にグリードに言おう。
「おい、カボチャ」
同じアーティストの、絶版したCD以外をごっそり買ったジミーにグリードは呆れ顔をした。
「最初から言えよ。なんでそんな回りくどい真似するんだ」
「だって、聞きたかったんだろ? 姉のペットが割ったって言ったらがっかりするかなと思って」
ビニール袋ごと、アルバムの束を渡すと、グリードは困ったような顔をして、一枚だけ中から受け取るとあまりをジミーに返した。
「猫が割ったんだろ? 気に入ってたけれど、仕方がないし。これ一枚で許してやるよ」
「いや、うちのペンギン野郎が割ったんだけど、受け取ってくれよ。俺の気持ちだ」
「いらねえよ、お前の気持ちなんて」
「気持ち悪いか。俺がこんなにしおらしいと」
「いや、そういうわけじゃないけれど……」
たじろくグリードにもう一度ビニール袋を握らせようと手を握ったときだった。
「あら、そっちもデート?」
声がした方向を見れば、藍とノウェムがデート中だったようで、腐女子ノウェム様がニコニコ笑っていた。
「ああ、いいのよ。私はあなたたちの熱いデートを遠くから見つめておくから」
見られたくない人に見られたくないシーンを誤解のある形で見られるのなんて、長く生きていれば何度かあることだ。
人生論に置きかえてみたけれど、やっぱり誤解だと言いたかった。
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