初めて職務質問というものを受けた。
自分がガラが悪いのは知っていたつもりだし、やってることがやましいことも知っていた。
だけど実際に職務質問を受けるとなんだかちょっと心外な気持ちになった。
「図書館の身分証明……756歳!? そんな歳なのか」
「爺さんで悪かったな」
「いや、思ったより歳とってるなと思っただけだって。気にすんなよ、爺さんだとは思えないほど若いぞ?」
自分はまだまだ若いと言おうとしたが、それこそジジイの若さ自慢な気がしたのでジミーはそっと黙る。
「もういいだろ? 俺、やましいこと何もしてないぞ」
本当は夜になるとカボチャをかぶって暴れていることで有名だが、証拠を何も残してない以上問い詰めることはできないはずだ。
「ああ。もう禁煙区域で煙草吸ったりしないでくれよ?」
若い馬の獣人はそう言うと、職務をまっとうして帰ろうとした。
ぐうううううう……
自分の腹が一瞬鳴ったのかと思ったが、腹は減っていない。
かわりに駿が気まずそうに「わりぃ、俺の腹の音」と言った。
ジミーはため息をついて、食堂のほうに歩き出した。
「何が食いたい?」
「蕎麦」
「蕎麦か。茶蕎麦が食いたいな、俺も」
さりげなく話を合わせながら、こいつを餌付けすれば職務質問を受けることもなくなるだろうかと考え、彼に「おごるよ。よかったら」と言ってみた。
「いいの!?」
獣人の少年は嬉しそうについてきた。
ちょろいもんだと思いながら、ジミーは彼の名前を聞いた。
「駿! 駿馬のように速くって意味で」
駿と名乗った少年は、人懐こそうに「あんたの名前は?」と聞いてきた。
「さっき身分証明書見ただろ?」
「名前って本人から聞くもんだろ。なあ?」
「ジミー=ザ・リッパー」
「切り裂きジミー? 変な名前。本名あるんだろ」
「あるよ。教えないけれど」
「教えろよ。本名登録しないといけないんだぞ、身分証明だからな」
「うるせえな。俺の顔よりみんなカボチャのほう覚えてるよ」
「否定はしないけれど、教えてくれたって減るもんじゃないだろ。けちー」
変な男。名前を教えたって減るものでもないが、知ったところで得するものでもないのに。
「耳かしてみ」
わくわくと耳を貸してくる、駿に本当の名前を教えてやろうかと思ったが、ふといたずら心でこう言ってみた。
「王様の耳はロバの耳」
彼が怒ったのは言うまでもない。
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