長い間大事に使ってくれた主人は私にこういった。
「お前ほど素敵なティーポットはないよ」
  と。私はそれを信じてきた。世界一素敵なティーポットが私なのだと。
  私は長い年月使ってもらえた。そのおかげで魔力が宿り、今では仮初の肉体を動かすことができる。


  ポットから初めて出てきた日、私が踏みつぶした男と私は友達になった。一方的に友達になった。
  昔こんな女の人が他にもいたらしいけれど、私にとってそれは関係のないことだった。
  男の腹にはトカゲが巻き付いており、左手は人間の形をしていなかった。
  こいつは私のポットを持ち上げることはできても、紅茶を入れることはできないだろうと思った。
  私がまじまじとあいつの左手を見ていると、ウィアトーは
「なんだい?」と言った。
「お前の手はどうしてなくなってしまったの?」
「どうしてだろう。ルネはどうしてが多いな」
「お前はそういえばが多いな。ウィアトー」
「ああいえばこう言うなあ。それでルネ、今日はなんのお茶を入れてくれるんだい?」
「茉莉花茶のやっすいやつをミルクで。お前は味がはっきりしたものから知るべき」
  甘ったるい花の香りを漂わせているジャスミンミルクティーをウィアトーの前に置き、その隣にバスケットに入ったガレットを勧めた。
  ウィアトーは片手で紅茶を飲み、そしてそれを置いてガレットをかじった。
  私はその間、ウィアトーの座っている絨毯の上に正座をしてじっと待っていた。
「私は世界一のティーポットなのよ」
  自分からそう言ってみた。
「そうか。だから妖精が出てくるんだな! 奇跡だ!」
  ウィアトーがおかしそうに笑ってそう言った。私はちょっと嬉しくなって
「当然! 世界一のティーポットだからね」
  と言ってみた。ウィアトーはもう一度「奇跡だ!」と言った。
  ウィアトーは私の低能に合わせてくれてるんじゃあないかってたまに思う。そして実は何も考えてない相槌なんじゃあないかとも。
「お前のことを教えてよ。私はウィアトーのことを何も知らない」
「君は君のことを知っているのかい? 世界一のティーポットさん」
  彼の質問はまったくもって意味がわからなかった。
「最高ってことだけ知ってりゃそれでいいの」
「そうかそうか」
  ウィアトーの手が私の頭を撫でた。
  私は子供扱いされてるなあと思ってとりあえずその手をかじってみた。
「そういえばこんなことされたことが昔あってね」
  ウィアトーの架空の恋人の話はもうたくさんである。

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