リョーノさんのこのお話の続きです。
「そういえば昔、こんな状況になったことがある」
左腕のない男は私を見上げてそう呟いた。エプロンドレスに赤いワンピース姿でこいつにまたがった女が他にもいるらしい。いや、男かもしれないけれど。
「それで? そいつと私だとどっちのほうが可愛かったの」
男は答えずに「そういや昔こんな状況になったことがあってね」と別の話を始めた。
旅人と名乗る語り部の胸ぐらをつかむ。
といっても、非力な私の力じゃそこまで強くは持ち上げられないが、強くゆさぶりつつ言った。
「そーれで? 私より可愛い女の子に跨られた話の続きはどうなってるの?」
ウィアトーは目を白黒させながら
「あるところに旅人がいました。旅人がギターを弾き鳴らして歌を歌えば、そこに女の子や鳥が集まってきて人垣ができました。そこで旅人はお金を稼いでいたのさ。ある日昼寝をしていたら、可愛い子がおれの上にまたがってた。本当だよ? それだけさ。手は出さなかったよ、おれは紳士だ」
「ふうん」
私の声が少しだけ冷ややかだったことにこいつは気づいているのだろうか。
「そういや私もこういう状況になったことが昔、あるわ」
本当は最近妖精になったばかりの私にそんな経験などないけれども。
「お前、わかってないのね。ウィアトー。ポットから出てきて最初に見たのはお前の顔なのよ」
「はあ」
生返事だった。なんだか期待した反応を貰えずがっかりしている自分に気づき、バカバカしくなってウィアトーの腹の上から降りた。
「ウィアトーなんか知らないから。ウィアトーのビア腹!」
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