01
「劣(おとる)、やっぱりお前の仕業だったんだな!」
放課後5時をまわったあたりだろうか。まだ薄ら明るい教室のロッカー付近で、自分の持っていた紙袋を隠しながら西園寺は首を振った。
「ち、ちがっ……ぼっ僕じゃない!」
「他に誰がいるってんだよ。逮捕! 逮捕!」
鈴木と加藤に取り押さえられながら西園寺は叫んだ。
「僕は無実だー!」
「ふあぁ〜暇ですねぇ」
翌日の昼休み……大きなあくびをしながら空乃が呟いた。校舎の西館の端にある裁判部の部室での話である。
弁当を食べながら陸が慣れたように応じる。
「事件が無いのはいいことだわ」
「でもあまりにも平和すぎて……この前の裁判もくだらない事件だったし。気合はいらないわヨねぇ〜」
そう言ったのは海馬である。たしかに裁判部は今、究極に暇なのだ。
やっと来た依頼もくだらないことばかりで、毎日オセロ、オセロ、オセロ……そして部長にハーゲンダッツを買いに行かされる、それの繰り返しである。
森下がにやっと笑いながら海馬に言った。
「揚足裁判の頃が懐かしいか? 海馬。なんならまた西園寺劣と組めよ、奴といれば飽きないぞ」
「冗談じゃない! もう二度とゴメンよ!」
キッとこちらを見返されて、森下は肩を竦めた。
滑りの悪い引き戸を無理やり力まかせにぴしゃりと開いて部長、河野里枝(こうのりえ)がずかずかと乗り込んできた。紙束を掲げてから
「みなさん。集まってください! あんまり面白くないけど面白い依頼が!」
わらわらと十人しかいない部員が集まって、そのコピーされた紙に目を通す。
『一週間前ほどから鈴木北斗の衣服失踪。
検討したところ、お下がりコーナーにて高値で販売されていた。
窃盗犯を捕まえるべくはり込んだところ、十月十一日17:15分。一年三組の教室にて西園寺勝を現行犯逮捕。一週間ほど前から西園寺氏の三組の出入り目撃者多数。
西園寺氏は無実を主張。』
「また問題起こしたの!?」
「こりない奴ね……」
海馬と陸が呆れたように呟いた。
後輩の山住春都(やますみはると)は西園寺と同じクラスである。
最近自分のジャージがよく消えるんだがと乗り込んできた鈴木北斗生徒会長に西園寺勝が凄い剣幕で怒っていたのを思い出しながら呟いた。
「まだ西園寺君は鈴木君の失墜を狙ってたんですね。でもこれは自分の墓穴掘っているようにしか思えないや。というかこれは……」
言いよどんだところを空乃がさらに追撃する。
「お下がりコーナーとか言ってぇ〜、あれですよね? あのブルセラコーナーでぇすよね〜?」
校舎の一角につくられたお下がりコーナー、それはリサイクル同好会によってつくられたものである。リサイクル部は普段は空き缶を集めたりするいい同好会なのだが、こんな一面もあるということで生徒会からかなり予算的に圧力をかけられているらしい。
森下がつまらなさそうに言った。
「これは明らかに勝ちがみえるね」
「聞かなくても分かるけど、西園寺氏の弁護したい人、手を上げてください」
部長の言葉に、むろん誰も手を上げることは無い。部長はため息をつくとハーゲンダッツを取り出した。
「仕方がありません。ここは公正なるハーゲンダッツ占いによって決めていただきましょう」
何が公正なのか、どんな占いなのか、部長が怖くて誰もつっこめなかったが、彼女はやおらいきなりすごいスピードでハーゲンダッツを練りはじめた。
「はぁあああああああああああ!」
ぱくっ……
食べた瞬間に目がくわっと開く。
「一人目は海馬白雪……」
「「あはははははは!」」
全員爆笑した。森下が海馬の背中をばんばん叩きながら、
「よかったな海馬。またアイコラがつくれるぞ。楽しくなりそうだな」
「二人目は森下透です」
「勘弁してください! アイコラなんてつくりたくありませんよ」
部長の選んだ二人目の人選に森下がいきなり焦りはじめる。陸が爆笑しながら森下を指差し、
「あんた、いじられキャラじゃあないから今まで逃れてきたツケがまわってきたわね。せいぜい黒い歴史を刻むがいいわ!」
「陸、お前僕になんか恨みでもあるわけ?」
「そんなことないわよ。部長、私検事側まわります」
「私もぉ、海馬君とぉ〜森下君をいじりたいですぅ〜」
四天王の女子組がすちゃっと手をあげた。海馬だけが爆笑の渦の中で静かに落ち込んでいる。ぶつぶつと『またアイコラまたアイコラ』と呟いていたことに気づいた者は誰もいなかった。森下ではないが、楽しいことになりそうである。
こうして四天王、男対女の戦いが始まるのである。