再び、アランからの小包

 数ヶ月経ったある日、チェスターから電話が入った。内容はアランの無期懲役が決定したというものだった。
――あいつから小包を預かった。検閲したあと問題がなかったら一応そっちに送るから。
「わかりました」
――だけど、碌なものじゃあなかったら捨てるんだぞ? 食べ物だったりしたら絶対食べるなよ? あいつ変態だから、中に何入れてるかわかんないし。
「チェスターは僕がなんでも食べると思っているんでしょう」
――いちおう注意しただけだよ。とりあえず一件落着してよかったな。また何かあったら電話しような。
  電話はそこで切られた。
  もうすべてが終わったのだと思う。少なくともアランについてはすべて終わった。

 数週間後、海を渡ってやってきた小包にはスケッチブックが入っていた。
  ギーの顔、レインマンの顔、同じ部屋の囚人の顔、アランの顔。
  他の絵が活き活きした顔をしているのに、アランの顔だけは憂いを帯びた表情だった。
  だけど無表情か仮面のような笑顔以外の表情を初めて絵で見たような気がした。

 何故、犯罪心理学者をやっているのだろう。犯罪マニアでも正義漢でもないのに。
  きっと自分は一番、犯罪者に近いのだ。人が死んでも何も感じない冷血な感情を、一番近いと感じる。
  だけどその感情を少し理解できるがゆえに、彼らが孤独だとは感じないのだ。
  よき理解者というよりは心の共犯者だ。彼らといっしょに責められることに怯えている。
  スケッチブックを閉じて本棚に仕舞った。
  これはひとつの事件にしかすぎない。ひとつひとつに感情移入してはいけない。
  自分は犯罪心理学者だ。そう言い聞かせて、ギーはひとつの事件に幕をそっと下ろした。

(了)