パリでも有名な洋菓子店、「ショコラのお家」が全焼したニュースが流れたのは翌日のことだった。
　 洋菓子店のオーブンから発火して、消火が間に合わず消火活動をしていた夫婦が焼死したという。
　 ひとり息子のギー＝ワロキエを残して、お菓子の家は消えてなくなった。

　ギーは二十二歳になっていた。働けない年齢ではない。両親の生命保険がおりて金があるとはいえ、学校に呑気に通う気にはなれなかった。というよりも、フランスにも、留学先のイタリアにもいたくなかった。
　 次にアメリカに行くと言ったギーに
「あんな犯罪の多い国に行かなくたっていいのに」
　 とイタリアで世話になっていた叔母さんは言った。だけどギーは言った。
「だから行くんです」
　 と。
　 学びたいことがあったのだ。
　 イタリアの大学で学ぼうと思っていたが、この際だ、本場のアメリカで学んだほうが手っ取り早いと思った。