07/22

 今日はレインマンの誕生日だそうだ。ギーはケーキの材料を買うためにパリ市まで出てきた。百貨店で材料を買ったあと、駅まで歩いている途中、ふとアランの住んでいたアパルトメントが目に入った。「入居者募集中」の文字が飛び込み、思わずどの部屋が空いているのか確かめると、アランの部屋だった。

「どうせまたパリ市のどこかに住んでいますよ」
  レインマンは興味なさげにそう言った。
「それより今日はどういうケーキをつくってくれるんですか?」
「サントノレとシブーストならどっちのほうがお好きですか?」
「マリー・ルイーズのシュークリームを最近食べたばかりだとサントノレを美味しく食べるのは難しそうです。シブーストをお願いします」
  買ってきた林檎をキッチンに並べているのを、楽しそうに見つめているレインマンに、ふと向き直った。
「どうしました?」
「昔、お土産を買いにパリまで行かせようとしましたよね?」
  紙袋の中から小さな小箱を取り出す。
「材料買った残りで買ったから、たいしたもの買えなかったけれども、お土産です」
「律儀ですねえ。そういうところ好きですよ」
  いらぬことを言いながらレインマンは小箱を開けた。中から出てきたのは髪を止めるゴムだった。淡い緑の天然石があしらってある、綺麗なデザインだ。
「あなたが石好きだって、マリー・ルイーズから聞いていたので。女の子のデザインだけど、あなたならきっと似合いますよ」
「ありがとうございます。とても気に入りました」
  レインマンはにっこりと笑い、結い紐を解くともらったばかりのゴムで髪をしばった。短い髪の先から、尾のように二対の数珠が繋がっている。見立てたとおりに似合った。
「さて、ギーくん。お料理のお手伝いしましょうか?」
「僕ひとりでやったほうが失敗は少ないと思うのでレインマンはリビングでマシマロでもつついていてください」
「折角人が手伝おうって気になったときは邪魔者扱いですか。いいですよ、もう」
「今の腹の立て方、僕みたいです」
「ギーくんの真似をしたんです」
  彼がどうしても手伝いたがっているので、上機嫌になった彼の機嫌を損ねるのも問題だと思って林檎を炒めるのだけお願いした。
  レインマンの誕生日にマリー・ルイーズは新しいパジャマをプレゼントしていた。生成りの生地でレインマンがいかにも好きそうなデザインだった。
  色々あったが、今度こそ普段の生活に戻ったという実感があった。