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 その日の午前、思わぬ客人がやってきた。パリ市警の刑事である。なんでもギーにプロファイラーとして仕事をするつもりはないか、ともちかけに来たそうだ。ギーはどう答えようか迷ったが、隣からレインマンが
「どうせトラブルはどんどん突っ込んでくるんですから、やればいいじゃあないですか」
  と応援してくれたので、そちらの仕事も掛け持ちでやることにした。
「そういえば結局フランチェスカは捕まらないままですね」
  ギーが思い出したようにそう呟いた。レインマンはしばし沈黙したあとにこう言った。
「もう彼女、死んでますよ」
「え?」
「殺されました。あなたが部屋に置いている熊のぬいぐるみから彼女の情報を読み取りました」
「だ、誰に殺されたんですか?」
  レインマンはもう一度沈黙して、「誰かに放火魔を殺して欲しいって依頼したでしょう?」と言った。
「……アランに」
「そう。彼ですよ」
  言った。たしかに自分はアランに放火魔を殺してほしいと言った。しかしだからといって、あの時点で放火魔が見つかると思っていなかったし、ましてやフランチェスカが犯人だとも思っていなかった。そして本気で彼がフランチェスカを殺すとも思っていなかった。
「あなたはこうも言ったんじゃあないですか? 『あなたは僕の気持ちがわかりますか?』と。あの人はあなたへの好意をこういう形で表現したんですよ、とても残念なことです」
「そんなことって、でも冗談ですよね?」
「冗談で人が殺せるとしたらそのほうがびっくりです」
  呆然としているとレインマンは最後にこう言った。
「だから言ったでしょう。あの男は危険だから要注意だって」
「わ、わかりました」
  動揺したままそう言った。アランは恐ろしい男だ。