07/15

 事件は全部終わったかのように見えた。
  アランは大人しいし、オリアーヌは助かったし、フランチェスカはまだ逃げたままだったが、概ねギーも普通の生活に戻っている。
  体調を崩していたレインマンだが、最近はリハビリをかねてタロットをいじっている。といっても、普段ならば一回で占いの決まる彼が、納得しない様子で何度も占っているので、占っている内容の結果がかんばしくないのはたしかだ。
「何を占っているんですか?」
「恋占いです」
  やっぱり、と思ってギーは聞いてみる。
「結果がよくないみたいですね」
「えらく邪魔な奴が何度か現れるらしくて。たぶんあなたです」
「なんですかそれ。僕はレインマンの恋路を邪魔したりしませんよ」
「邪魔ですよ。あなたが目の前をちらつくとターゲットに集中できないんですから」
  無茶苦茶ないちゃもんをつけられて困惑していると、レインマンは「でも僕はあなたのことをそういう意味で好きなわけではないのですよ」と言った。
「僕にとってギーくんっていうのは恋人や愛人にカテゴライズするものではありません。純粋に大切にしたい友達なので、むしろそっちの関係になりたいとは思いません」
「当たり前です。僕はヘテロですよ? あなたの恋路を応援することはあってもそれ以上はあり得ません」
  ギーはきっぱりと言い切った。
「たぶんマリー・ルイーズの香水が悪いんですね。あれをつけているあなたは何割か増しで魅力的に見えるから」
「はあ……」
「本当はただの食いしん坊でしかないくせに」
「そんなこと言ったら、あなたもただのマシマロ殿下でしょうに」
  お互い減らず口を叩く。レインマンは笑った。
「その香水をつけるのはもうやめたほうがいいみたいですね。誘蛾灯のように男も女も、事件も誘い出される」
  ふと、レインマンはギーの手に視線を落として言った。
「指輪、外したんですね」
「家庭教師やっている生徒のひとりに、『大切な人を逃すことになるから』と指輪をつけるのをやめたほうがいいって言われたんです」
「あなたの場合、あの指輪は必要かもしれませんよ? 僕は自分の恋占いの前にあなたの恋の行方も占ってみましたが、僕以上に最悪です。あなたの恋は二進も三進もいかないでしょう。というか女運が最悪、ありえない。碌な女が寄ってこないのでこの際恋は諦めてマシマロ職人にでもなればいいんです」
「結局マシマロが食べたいだけですよね!」
  思わずそう突っ込むとレインマンは「そのとおり」と言った。
「マシマロは苺味もミント味も美味しいけれども、やっぱりプレーンな味が一番美味しいと思うんですよ。口にいれた瞬間のあの蕩けるような舌触り、ふわふわの食感、たまりません。ギーくん、僕のためにせっせとマシマロを作成しなさい」
「わかりましたよ。あなたにとってギー=ワロキエはイコールマシマロ制作マシーンなんでしょうに」
  呆れたように呟いてキッチンに下りて行こうとしたところで、レインマンがこちらを見て頬笑んでいるのが目の端に映った。エンパスなどでなくたってわかる。レインマンは自分のことが大好きだ。ギーもきっとレインマンのことが好きだろう。恋とは違う感情だが、お互いの中に深く食い込んでいるのだ。