窓際に追いやられる白馬の王子様

 ヒロインが困っているところに白馬の王子様が毎回通りかかったら、それはきっと王子様はどこかで彼女を監視しているのである。
  だいたいの現実において憧れのあの人は、自分が困っているときには別のところで何かをしているものだ。そうしてあとで気づいて、そのときどうにかしようとがんばってくれる奴は比較的白馬の王子様だと思う。
  だけどだいたいの王子様は「大変だったんだな」で終わると思うのだ。王子様は下々の人生には無頓着である。

 なぜそんなことを考えたかといえば、私の友達がよく、可哀想な少女が心のやさしい青年によって救われる話を書くからなのだけれども。
  そのお話はどれも面白いから、それ自体にケチをつけたいわけではないのだけれど、どこかで私は
「そんな誰かが都合よく助けてくれるわけがないだろ。金もなければセックスもしてくれない女に無償で奉仕し続ける男なんて存在するわけがない」
  と感じてしまうから、心の底から物語を楽しめないのである。
  この男は何が狙いだ? 金も肉体もいらないというのであれば、愛だけほしいと言うのであれば、彼女が愛をあげなかった場合違約金としてとんでもないものを持って行くのではないだろうか。
  え? 無償だと。世の中に無償なものなどあるわけがない。タダより怖いものはないのだ。
  いちいちそんな思考なのである。男の愛情を信じられない、悲しいおばさんだ。

 だけどお話の世界に現実の男を持ち込んでも仕方ないというか、夢は夢であるからこそきらきらしているものだと思う。
  だから本当は、お話の世界の中くらい、きらきらした男を楽しみたい。
  ところが私ときたら、「誰かが助けてくれて、肯定したり叱ってくれてメタモルフォーゼ」というタイプのお話がともかく苦手なのだ。
  そんな他力本願でいいのか? 自分の足で立って、自力で肯定できたり、自分を律することができずして一人前と言えるのか。そういう発想の人間だったりする。

 白馬の王子様はどこにいてもいい。たまに助けてくれるなら、そいつは王子様だ。
  助けてくれなくても、近くにいてくれるならばそれは王子様かもしれない。
  離れて行く王子様もいていいと思う。
  世の中はいい王子様であふれている。二次元の男も三次元の男も、いい男と感じる男はいっぱい見てきた。だからそういう存在に絶望しているわけではない。

 だけど私は白馬の王子様に助けてもらえるヒロインになりたいわけではないのだ。
  あなたなしでは生きていけない存在になりたいわけではない。
  人生を自力で切り開く女にいつでも憧れているのだ。結局自分がそうなりたいから、王子様には自分の邪魔にならない程度に存在していてほしいのである。