貴族趣味

「ヴァイオリンの名器と名曲」という本を買ってきたときに、ストラディヴァリの聞き比べができる付録がついていた。ストラディヴァリというのはご存知のとおり、ヴァイオリンの中で一番の名器といわれているものである。

 さてさて、さっそくCDをセットした。
  使ってあるヴァイオリンはガッダ、ヴィットリオ、ストラディヴァリのみっつ。
  ガッダとヴィットリオはモダン・ヴァイオリンの種類である。
  ガッダは少し鼻づまりのするような擦れた音で、ヴィットリオは大きい音だけど深みにちょっと欠けるとか説明が書いてあった。

 そして聞いてみたわけだが、たしかにストラディヴァリの音が一番綺麗なのがすぐにわかる。
  ガッダとヴィットリオだってそんなに悪い楽器じゃあないはずなのだが、ストラディヴァリの音は聞き比べると一発で「これは違う!」と感じた。
  ストラディヴァリは本当にすごいんだなあ、ということを知った。

 ところで、私は友人たちに「貴族趣味だ」とよく言われる。
「お前は金が無駄にあると意味もなくヴァイオリンを買うだろ」
  と言われたので、
「そんなことしないよ! ヴァイオリニストを買うよ!」
  と言ったらすげーと言われた。

 無限大に金があったら、ヴァイオリニストとピアニストを雇って毎日室内音楽を聞かせてもらうんだというとなんという貴族とだいたいの人が言うのだが、普通あまりそんなこと考える人がいないみたいだ。

 それを妹のニノさんに話したら
「奇遇だな、あたしもヴァイオリニストになろうと思っていたんだ」
  と彼女は言った。へえ、初耳だよ、としか言いようがなかった。
  仮に彼女がヴァイオリンを買ったとしたら、弾き鳴らしているのはおそらく彼女ではなく私だと思う。