小林一茶、5歳

 私の家のパソコンは、全部名前がついている。
  私のパソコンは「小林一茶」という名前だ。もう五歳になる。
  人間で五歳だったら若いが、コンピューターで五歳はご老体だ。
  小林さんがひどい状態になったため、全部バラして新しい部品と入れ替えた。
  毎回自作パソをやるとき、自分が借り出されるのが面倒だと感じている父が、そろそろ私に組み立てられるようになってほしいらしく「いいか、今回父ちゃんは口しか出さないからな」と言った。
  まあ非力な私に全部ひとりでできるはずもないので、父は絶対手も出してくるとはわかっていたけれども。

マザーを入れ替える段階
父「たぶんこのパソコンがイカれてるのはマザーのせいだ」
花南「『小林解体事件、犯人はお母さん』ですね!」
父「そういや沖縄のホテルはすごいんだぞ。部屋でホエールウォッチングができる」
花南「?」
父「隣のベッドでシュゴーシュゴーってくじらがいびきをたてて」
花南「ホエールウォッチングってお母さんのイビキじゃないか! ずっと誰かに言いたかったんだろ、それ」
父「めっちゃ言いたかった」

CPUを入れ替える段階
父「お父ちゃんがこれと同じスペックのものを手に入れたときは15万したんだぞ!」
花南「花南が父と同じスペックのものを手に入れたときは2万円だった!」
父「きさま、首をしめてやる!」

パワーを入れ替える段階
花南「パワーのコードってさ……」
父「?」
花南「アオダイショウに似ていると思いませんか?」
父「余計なこと考えてないで組み立てろ!」

HDDを入れ替える段階
花南「たしか今から14年前さ、ゆきのり兄ちゃん(叔父。SE)が使ってたHDDが2テラだったんだよね」
父「そうだったね」
花南「花南のパソ、やっと1テラだよ」
父「そうだな」
花南「あれから14年経って、やっとSEのパソに追いついたけれどもさ……今兄ちゃんのパソは何テラあるんだろうね?」
父「普通のパソがメガの時代に父ちゃんがギガであいつがテラだろ? テラの上ってなんだっけ?」
花南「わかんない」

フロッピードライブを入れ替える段階
父「今の時代にフロッピーなんて使うな!」
花南「でも熊本ではまだフロッピー売ってるんだよ!」
父「だって今回買ったパワーにはフロッピーにつなぐコードがないんだもの!」
花南「そんな! これからどうやってフロッピーを読み込めばいいの!?」
父「だからフロッピーなんて使うな!」

一番細かいごちゃごちゃした配線の段階
父「器用な器用な花南ちゃん、今から一番難しいところをやります」
花南「失敗すると爆発するんですね?」
父「うん。パソコンでなく、お前の首がな」
花南「!?」
父「今からお父さんがアラビア語の説明を読む(説明書は中国語とアラビア語で書かれている)から配線間違えるなよ?」
花南「え、あの……無理なんじゃ」
父「間違えたら打ち首獄門だからな?」

試運転
ウィーン…
花南「パワーもグラボもちゃんと動いてるのにモニタにうつらないね」
父「可能性は3つある」
花南「どんな可能性?」
父「その1、花南が嫌われている」
花南「うん」
父「その2、花南が嫌われている」
花南「……」
父「その3、花南が嫌われている」
花南「番外、花南が嫌われている」
父「よくわかってるじゃねぇか」

 その日、結局小林は組み立て終わらなかった。
  あとで父親が全部調べたところ、組み立て自体は失敗していなかったが、CPUの相性が悪かったらしい。
  小林は内臓を入れ替えて、今も元気に動いている。