いとこのガキが遊びにきた。両親はおじさんとおばさんと込み入った話があると俺にそのガキを押し付けて、追い出す。
俺は小学生のチビの手を掴んだまま、呆然と立ち尽くした。
「どこか行きたいか?」
チビは首を左右に振る。そうされるのが一番困った。
「お腹空いてたりするか?」
チビは少し沈黙し、こくりと頷いた。
そうして俺たちは百円マックを食べに行くことになった。
「ハンバーガーふたつください」
百円で食べられる、腹にたまるもの。迷うことなくそれを注文した。
「ハンバーガーふたつでよろしいですか?」
スマイルでも追加しろっていうのか。俺は少し沈黙して、見栄をはって「フライドポテトも」と言った。
「Sサイズにしますか、Mサイズにしますか?」
「え……Mサイズでお願いします」
俺はどうしようもない見栄っ張りだった。
チビのところにお盆を持って行き、片方のハンバーガーを持たせる。
「これだけ?」
遠慮しろ、ガキ。
「これだけだ」
「全部食べていいの?」
「俺の分も残しておけよ。金出したの俺なんだし」
ハンバーガーをぱくつきながら、俺はチビを見た。チビの名前は覚えていない。だから俺は彼のことをチビと呼んでいた。
「チビ、ケチャップが口についているぞ」
そう言うとチビは頬をぬぐう。ケチャップがピエロのように広がった。
「ああもう、」
面倒さもあったが、なんだかしょうがない弟を見ているような気持ちになってハンカチで頬を拭う。
「どうだ、学校は楽しいのか」
俺は話題のないお父さんのような話をチビに振ってみた。チビは少しだけ首をかしげて、「なんで?」と聞いた。
「なんでもだ」
「学校。そんなところ、行かないよ」
チビはそう言った。
「学校に行っても、今はしゅうしょくできないって言うんだよ」
「学校に行かない奴はさらに就職できないぞ」
「しゅうしょくしないと、食べていけないんだって。しゅうしょくってすごく大変で、いっぱい受けて落ちないといけないって言っていた。『お前はお父さんのようになっちゃいけませんよ』ってよくお母さんが言っていたんだよ」
俺は少し息を飲んで、「そんなことをおばさんが言うのか?」と聞いた。
「お母さんはね、よくできるところはお母さんに似て、できないところはお父さんに似たって言うんだ。だから僕はお父さんの子なんだね」
その理論破綻している子供の言葉を聞いたとき、俺は妙に寂しい気持ちになった。
「フライドポテト。あるだろ?」
俺はチビにフライドポテトを見せた。
「一本のフライドポテトならば簡単に折れるが、三本のフライドポテトだと簡単にはちぎれない。お前とお父さんとお母さんもそれくらい協力していかくちゃな」
そう言ってフライドポテトに力をこめた。
「……あっさりちぎれたね」
俺が怪力すぎるのか、それともフライドポテトは心許なかったのか、あっさりと千切れた。
「でも、三本いっしょに食べると、美味しいよね」
俺は無理やりまとめにかかった。
チビは笑って、手にいっぱいフライドポテトをつかんで千切ろうとした。
「これくらい、集まってれば大丈夫?」
俺はにやっと笑った。
「そうだな。いっぱい仲間作っておけよ」
たったひとつの家族じゃ耐えられないこの厳しい社会も、いくつもの家族がまとまって繋がれば乗りきれるんじゃあないのか。
今こそ繋がりを大切にするときなんじゃあないかって、俺はそんな気がした。
(了)
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