嘆きの塔に横たわる、わたし

 雪に閉ざされし尖塔の中に、ひとりの女がいた。
  女は死んでいた。なぜ死んでいたかということを“私”が語ろうと思う。

***
  女は男と結婚していた。女は踊り子、男は貴族だった。
  男は女を娶り、そしてこの塔に閉じ込めた。女はそれを不思議と受け入れた。
  だからふたりの間には一切の苦しみもなかった。
  女は男の束縛の中で生きることをよしとした。男は女を守ることを喜んだ。
  そしてある日、私はそこに来ることになった。

 私がここにくることになった理由。それは普段話し相手になれない男が、女が寂しくないよう私を女にプレゼントしたのだ。
  女は私にとかく話しかけた。私は何も話さなかったが、女は色々なことを聞かせた。
  ここに来る前の話、ここに来てからの話、異国の地で見てきたもの、男の話……
  女は寂しさを紛らわすために私に話しかけるようになってからある勘違いをした。私に魂があると思ったのだ。
  男は女が狂ったと思って私を取り上げた。
  女は思わず男の頬を叩いた。
  そして男は、逆上のあまりに私を女に振り下ろした。

 私は女を殺した。
  男は自分のした行為に気づいて非常に取り乱した。
  男が逃げたあとも私はたたずんだままだった。

 私は置物。
  魂を持った置物。

(了)
使ったお題。
雪、舞姫、嘆きの塔、置物、異類婚

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