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「シュトックハウゼン伯爵、結婚……か」
  新聞に目を通していた僕は、当然のごとく僕より先に結婚した、美形で、金も権力も才能もある自信家貴族様の幸せそうな写真を見てため息をついた。
「僕に春はやってくるのでしょうか」
  そう呟いたとき、玄関をノックする音が聞こえたので外に出た。
「煮物があまっちゃってね、コルサコフさん独り暮らしで煮物はいつも買っているって聞いたからほれ、味が口に合うかもわからんけど」
  隣のおばあさんが煮物を持ってきてくれたようだ。お礼を言って、受け取った。
  少しずつ、僕はこの街の風景に溶け込んでこられるようになった。正直、自分の住んでいる地域から出ればまた「嫌われコルサコフ」に逆戻りなんだけれども、みんなに理解されようなんて最初から僕は考えてはいない。
  僕が武器商を営んでいるのは事実だし、その武器で失われた命も、守られた命もたくさんあるのも事実。
  だから、そういった武器商としての顔以外の、ただのイリヤとしての顔も知ってもらえたというだけで、満足なのだ。
「僕はいい人じゃあないですしね……」
  ねちねちと殺傷能力の高さを研究するオタクがいい人に分類されるわけがない。だけど、悪い奴でもないんだぞ。なんとなくそれが今は、誇らしげだ。
  玄関を閉めようとしたら、保安官たちと現場に向かっているジミーが見えた。愛しのお姫様は今日も充実しているようだ。
「さて……なんでも性急に運ぼうなんて、僕は考えていませんよ」
  三十六年かければ、嫌われ者からちょっといい人にランクアップできるんだ。ちょっとずつジミーのことを理解して、あっちにもこっちを知ってもらえばいい。

 こういう物語の締めって何を言えばいいのでしょう。
  ああ、これがいいのかな?

 そしてみんな、しあわせに暮らしましたとさ。
  それぞれのかたちでね。
  おしまい。

(了)