08/16

 15日に「今日は給料日だぜ?夕食何出てくるだろうな、三芳」と言った篠宮さんが今日は静かだった。何が夕食に出てきたんだろうね。
「篠宮さん昨日の夕食何がでてきたの?」
「おにぎり」
「他には?」
「何も」
「具は?」
「何も」
「なんで給料日におにぎり1個なの?」
「米と塩しかなかったから。海苔すらなかったんだ」
「だから、なんで給料日におにぎりしかなかったの?あんなに夕食楽しみにしていたじゃない」
  篠宮さんが無視した。スリにあってお金がなくなったとか?お父さんが酒を飲みすぎたとか?よくわからなかったけど聞いちゃいけないことだったのか。

 その日、夕方帰るときに篠宮さんが元気がなかったのでなんとなく送っていくという理由をつけてついていった。
「篠宮さん……」
「何?」
「君、大丈夫?」
  なにが大丈夫ってあえて指定しなかったけれども、元気ないけれども大丈夫? おなかが痛かったりするのかなという意味で聞いたつもりだった。
「大丈夫じゃあない……」
  篠宮さんが初めて吐いた弱音だった。
  川の土手にしゃがみこんで夕日を見ながら、篠宮さんが早口で語った。
  篠宮さんの家は自営業なんだけれども滅多に収入がなくて、半年前の収入を細々と食いつないで昨日やっと新しい金が入ってくるはずだった。だけど相手先の都合で収入の見込みがなくなり、来月からどうやって食べて行こうかという話をしているところだというらしい。
「中学時代にお父さんの会計の仕事を手伝って少しずつお金貯めて、それで高校に行くつもりだったんだよ。だけど今回その貯金使って食いつなぐことになったの。3年間貯めた金だってのに……一ヶ月食いつなぐのがやっとのお金なんだよ。ああ、お金なんて一瞬でなくなっちゃうんだって思ったよ。私高校行けなくなったから中学校卒業したらフリーターだね。家庭科得意じゃあないしレストランやお惣菜コーナーでは働けない、顔も綺麗じゃあないから水商売も無理。お掃除のバイトくらいかな……残ってるのって」
  ハードそうだよね、と篠宮さんが苦笑した。篠宮さんが中学を卒業したら高校に行くのは当たり前だろうかと言ったその意味が分かった。
  僕の常識が狂い始めた瞬間だった。