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「上条先輩、このたびは僕の身の上相談に乗ってくださいましてありがとうございま――」
  僕が相模高校の執務室に入った瞬間耳元すれすれのところをチョークが掠めていった。チョークで戦うという昭和人間な旧特別監査委員長が上条聖司だ。ぬらりとした長くて黒い前髪とヤバそうな目……先輩、あなたの前にくるといつも中学一年生の自分に戻っちゃいます。
「たまちゃんが頼みごとなんて珍しいから聞いてやるよ。誰殺してほしいの?」
「暴力以外で解決できるようになったらどうなんですか?」
「じゃあ何の用だよ? 裏口入学させてくださいなんていうくだんねーこと言いやがったらこの場で殺すぜ?」
  篠宮さん、僕は君よりも先に死ぬかもしれません。
  上条先輩は僕のこれまでの話をひととおり聞くと真剣にうーんと唸った。
「まあ俺はお前と違ってインテリ系な男だから校長を説得するくらいはできるけど」
「ものっそ暴力性のお手本みたいなバイオレンスな男ですよ、先輩って」
「でもさ……その篠宮だっけ? そいつ本当に勉強できるんだろうな、あるいは運動ですごいのができるとか、すごい特出した才能とかあるか?」
  僕は少しだけ考えて、すぐに答えに行き着いた。
「数学が得意です。100点以外とったことがないから数学者になれるんじゃあないかって……」
「お前は少しその篠宮に溺れすぎだぞ三芳。中学で100点くらいお前だってケアレスなければ解けるっての。でも一切間違えないってのはある意味強みかもしれないな……難関校の問題とか用意して解けたら校長も奨学生として認めるかもしれない」
「範囲はどれくらいですか?」
「中学校の勉強の範囲でいいよ。ただし用意する問題は偏差値70クラスの数学を用意させるから篠宮には全力で勉強させろよ?」
「わかりました」
「あとたまちゃん、お前も相模高校に志望校変えやがれ」
「は?」
「この学校にはクソしかいない。お前くらい優秀な部下がひとりくらいいないと相模高校の平和を次世代に託せない」
「……わかりました」
  まあこれで相模高校を志願する口実はできたわけだね。篠宮さんと同じ高校で、上条先輩と同じ高校に何がなんでも進まなくちゃいけないという理由が。
  両親は「好きな高校進めばいいじゃない」と言ってるわけだし、ひとつランクを下げても文句を言うのは進路指導の教師ぐらいだろう。
  上条先輩が電話がかかってきたのでそれをとって、すぐに切った。
「高校の中で問題が起きたみたいだから当事者たちを殺しに行くけどついてくるか?」
「帰りたいんですけど……」
「ついてくるよな?」
「……はい」
  上条先輩は動くことなくチョークだけで暴れた生徒たちの額をかち割った。どれだけ恐怖の独裁者なんだ、先輩。この高校の平和を僕が守れるのかが今からすごく不安になってきた。