「たぬちゃん、仕事の奴隷である君にとても素敵な仕事を用意しましたよ」
  今日の鳳は上機嫌だと黒狸は思った。というのも、彼が自分のことを「たぬちゃん」と呼ぶときはだいたい機嫌がいいからだ。彼は笑うと糸目になる目で笑顔を作りながら、封筒を黒狸に渡してきた。
  ここは鳳の執務室。いるのは呼ばれた黒狸と、参謀の透龍(タウロン)そして若きボスである鳳・ROSSO・白明である。
  黒狸はデスクの向こうでご機嫌な笑顔を作っている上司から封筒を受け取ると、近くにある応接用のソファに腰掛けた。眼の前には秘書が入れてくれたまま冷めかけた珈琲。人払いをしてしまったあとなので、熱い珈琲は期待できなかった。
  黒狸は冷めた珈琲をずずっと啜ると、資料を見る前に聞いた。
「鳳サン、これはやっぱり?」
「あなたの好きなお仕事だよ? 黒狸クン」
  やっぱり。女を騙して情報を引き出してこいとか、その手の仕事だ。
  黒狸は人を騙すのに長けている。そういう異能の持ち主だ。信じたいものを信じさせるぐらいのことはできる。
  その異能のことを知っているのは鳳と実の弟の雪狐ぐらいだが、もちろん上司の鳳は黒狸の本質が「信じる」だということを知っていながら、騙す仕事をもってくる。都合のいい事実を押し付けるのに黒狸の能力は適しているからだ。たとえば、女性に恋人だと信じこませて、必要な情報を引き出したり――
「で、誰と寝ればいいの?」
「その封筒に書類があるのに僕にそういう露骨な質問をする部下は好きじゃありませんね」
「だって聞いたほうが早いじゃないですか。ねえ、透龍さんもそう思うでしょ?」
  透龍は答えなかった。黒狸は沈黙に耐えきれず、黙って封筒を開いた。中から出てきたのは鮮やかな青い髪をした女性の写真。
「わぁお、美人。この人と寝てくるだけでいいの? なんの情報引き出せばいいわけ?」
「黒狸、真面目に仕事する気あるのか?」
  一つ年下の上司に対して思わずタメを聞いた黒狸に、年上の透龍が注意をする。引き伸ばされた写真をめくり、資料を見た。
  名前はヴィーラ。年齢不詳の人魚。つい最近まで愛玩用として金持ちの家で飼われていたらしいが、殺して脱走したのち紅龍会に入会。国士無荘というボロアパートの管理人をしているとのこと。
「待てよ? なんで脱走した直後で管理人というか、これ大家じゃね? 部屋広いし」
  ヴィーラの住んでいる家の見取り図を見ながら黒狸は呟く。殺して脱走した直後にそんな金があるわけがない。雇われ管理人ならわかるが、この扱いはたぶん大家だろう。
「不自然な点はそれだけじゃあない。彼女はゲームが始まるタイミングで、一ヶ月前に紅龍会に入会した。そして脱走から入会まで少しブランクがある」
  透龍の補足説明に、ふうんと頷いてもう一度珈琲を啜る。依頼内容は紙には書いてない。だがもう分かっていた、スパイ容疑だ。
「彼女が運営のスパイかどうか、調べてきてほしいんですよ」
「調べてもしそうだったら、どうしますか?」
「もちろん、紅龍会にそんな巫山戯た真似をしてくれるスパイさんには、きつーいお仕置きが必要ですよね」
「きつーいお仕置きね」
  拷問だな。とりあえず吐かせる目的もなく拷問にかけるということだけはわかった。
  まあ黒狸には関係のないことだ。彼女と寝るなり親密になるなりして、しっぽを掴めばいいだけの話。その後はきっともっと野蛮な連中のお世話になるのだろう。
「かしこまりました。社畜はなんだってしますよ、ドン・白明」
  封筒の中身を覚えるまで眺めたあとは、封筒を鳳に返して黒狸は普段の仕事に戻った。少しこれから忙しくなる。

 

「姫サンがまた無茶を言いおった」
  若きボスの我侭ぶりを姫サンと呼ぶようになったのはいつからか。きっと大した意図はない。世間知らずだとは思ってないし、守らなければとも思ってない。ただ欲しいものを欲しいと願う姿がお姫様のようだと感じたからそう呼び始めた。当然本人の前で言ったら怒られるどころでは済まないが。
「鳳さんはまた何か無茶を兄貴に言ったの?」
  弟の雪狐は極端なきれい好きだ。黒狸の部屋を掃除したり片づけたりしながら、ベッドで腹ばいになってノートパソコンと格闘している黒狸を心配そうに見る。
「俺さ、いい加減女と寝るのが仕事じゃないって鳳サンに言うべきだと思う? 今日だってね、俺はお返事を書かなきゃいけないメールがたくさんある上に、レノリアさんから上がってきた書類も読まなきゃだしね? 鳳サンも俺が暇じゃないってのは知ってるんだろうけれども、信頼が厚いとかじゃないから。姫サンはただ、俺がお仕事大好きなのを知っていて、姫サンの下僕するのが好きなの知ってるだけで、俺はいいように利用されてるわけ」
「そこまでわかってるなら、辞めれば?」
「お兄さんが辞めたらお前が運営の仕事クビになったときどうやってお前を支えるわけ? このマンションだって家賃あるのに」
  雪狐は掃除を済ませると、クリーニングに出したまま干してあるYシャツをクローゼットに移動させはじめた。
「お前、最近何をやってるわけ?」
「ゲーム二回戦の準備」
「ああ、もうそんな時期か」
「今回は楽だよ。カメラの監視だけだし」
  雪狐の異能はどんなに細かいものも、一つ残らず見落とさないということだ。その異能は普段彼の負担にしかなっていないが、たしかにカメラを全部監視しておくのにこれ以上適した人材はいないだろう。
「二回戦のゲームの内容とか、教えてくれんの?」
「嫌だよ。発表されるまで待ってほしいもんだな」
  雪狐に教えてもらうのは無理なようだった。黒狸はメールを返しながら、目が疲れぬようにかけていた眼鏡がずれたのに気づき上げ直した。
「ゲームに通常業務プラス女の面倒とか超面倒すぎて」
「兄さんも若くないんだからね?」
「俺、まだ枯れてないです」
「違って、過労に気をつけてね」
  早とちりした内容を正されて、黒狸はノートパソコンを閉じた。少しだけ仮眠をとろう。最近ハードワークすぎる。

 

 尻の軽そうな女だと、ヴィーラを見たときに思った。肉感的にもボリュームのある、美しくも婀娜のある女だった。チャイナを着ている理由はわからないが、身長も高く、胸も尻もたっぷりと肉のついた、やわらかそうな身体をしていた。しかしどこかから、男に対しての媚びを感じずにはいられない。媚びがあざとくないので、直感でしかないわけだが。
「はじめまして、祥黒狸です」
「ヴィーラです、よろしく」
  にっこりと人懐こい笑みを浮かべたヴィーラに、黒狸もにっこりと笑う。さて、この女はもしかしたらすぐに手が出せるかもしれないぞと思った。
「ところでヴィーラさん――」
  お互い笑顔を作ったまま、同じことを言った。
「――確かめたいことが」
「確認したいですよね? 身体の相性」
  向こうの口からも飛び出してきた言葉に、こっちの口から飛び出した言葉に、お互いあははと笑う。ひとしきり笑ったあとにご飯を食べに行くノリでそのままホテルに向かった。

 

 わけがわからないと思った。
  ヴィーラの身体はすこぶる好きだった。胸は大きく、ウエストは細く、尻の形はとてもよい。青い陰毛は見慣れれば扇情的だったし、身体のどこにも不満はなかった。
  それどころが具合がよすぎて驚いたぐらいだ。驚きすぎた。名器というわけではないが、たぶんこの女だろうと思った。何が? と聞かれたらわからなかった。ただ、自分の待ち望んでいた女はこの女だろうと黒狸は思った。
  わけがわからなかったのは、何故、黒狸が小さい頃からずっと探していた、愛するべき一人の最愛の女性が、その候補が、自分の仕事で寝るだけの相手に現れたのかということだった。何故普通に彼女と出会うことができなかったのだろう。何故、結ばれてはいけない相手がよりによって黒狸の望んだ女性だったのかということだ。
  シャツのボタンを留めながら黒狸は考えた、これからどうするべきかということを。この女を逃して、次にまた番になる女性が現れるチャンスが来るのはいつだろうか想像した。おそらく自分は透龍と同じかそれ以上の年齢になっていることを想像した。今ここで、手に入れたいと思った。そう望んだ。
「ヴィーラさんを手に入れる方法を考えている」
「それで?」
「どうやれば落ちるかなあって」
  ヴィーラは裸のまま、枕に頬杖をついて「ふうん」と呟いた。
「それで、方法は見つかったの?」
「いいや」
「なんだ、そう」
「ただ、モブじゃないってことは伝えておこうかなと思って」
「あっそう」
  気のない返事をするヴィーラを振り返ることもなく、黒狸は背広に腕を通した。
「また、こういうことしたいんだけど」
「いつでも電話してくれていいよ。連絡先さっき渡したよね?」
「じゃ、仕事の合間に連絡いれるよ」
  黒狸はそれだけ言うと、ホテルで寝てから帰ると言ったヴィーラを置いて、紅龍会本部の仕事部屋に向かった。扉を閉める瞬間まで、ヴィーラの視線も興味も感じられなかった。今のところ、彼女にとって自分は一度寝ただけの相手らしい。本気にさせてみようと思った。そのためにはまず自分が本気になる必要があった。

 

◆◇◆◇
  ゲーム第二回戦前日。
  兪華と湖緑はバー・クワイエットにいた。静寂の名のとおり、店内は居酒屋のように騒ぐ人間がいない。静かに語らう恋人や、疲れたサラリーマン、そして間接照明を受けて輝くリキュールの瓶のインテリア。
「湖緑くんの飲んでるワイン、高いの?」
「普通ですよ。銘柄にはこだわりませんし」
「へえ。てっきり好みにはうるさいんだと思った」
「お酒は好きじゃありません。ニキビが出来るんで」
  湖緑は肌に吹き出物が出ることを極端に嫌うことを兪華は知っていた。自分の手には東洋の白酒が入っている。
  湖緑との間に置いた、お互いのつまみは減っていっている。彼はワインでこちらは白酒。つまみはチーズと枝豆なので喧嘩になることもなかった。待ち人を待つ間につまみが切れないかのほうが少し心配である。
「本当に来るんでしょうかね?」
  しびれを切らしだしたのは湖緑のほうだ。当然だ、兪華たちが待っているのはまっとうな仕事をしている人間ではなかった。軍人としては始末しなくてはいけない、マフィアを待っていた。
「待たせてしまって悪かったね。部下たちを説得するのに少し手間取った」
  バーの中に入ってきた老紳士に、兪華と湖緑の視線が険しくなる。白髪の老人は透龍と言った。マフィアの中ではトップレベルの要人のはずだ。
「呼び出しておいてすまなかったね。ああ、私にはドライベルモットを」
  透龍は帽子をとり、カウンターに置く。横をチラ見すれば湖緑が杖をかまえている。いつでも拘束する準備はできているのだろう。
「その凶暴な杖を引っ込めてほしいものだな。別に拘束してもかまわんが、ならばこちらも君の息の根を止めて拘束を解くぐらいの荒業はしなければならない」
  湖緑の杖を握る手が止まる。ただの脅しではないことはわかっていた。賢い老いぼれマフィアが何の策も用意せずに軍人をバーに呼び出すわけがない。きっと既にこの中にもマフィアの者が潜入してこちらが変な行動をとらぬよう見張っているのだと思う。それでも湖緑と兪華が来たのには理由があった。
「それで、いただいたメールは本当なんですか?」
  最初にメールを受け取ったのは兪華だった。そこに湖緑の名前もいっしょに連ねてあった。第二回戦のゲーム内容発表後、突如として紅龍会から舞い込んだメール。他言無用の義理を果たすか元帥に報告するかは、親友である湖緑に相談した。元帥を狂信する湖緑が透龍の持ちかけた取引を受け入れようと思ったのは、ヴェラドニア軍が有利になることが最終的には元帥の意思だろうと思ったからだった。そのあとでも紅龍会を潰すことは可能なのだ。まずはゲームで勝つことを二人は選んだ。
「それで、僕たちに何をしてほしいと?」
  湖緑の杖を左手で抑えながら、兪華は透龍に聞いた。透龍は冷えたドライベルモットに口をつけながら、静かに笑う。
「君たちの能力は人を拘束するものと、ダウンさせるものだと調べさせてもらった。あととても仲がいいこともね」
「はあ」
  だから何だと言うのだろう。早く切り出してもらいたいものだ。兪華はダウンさせる異能とはっきり言われて不本意だったが、その気持ちに蓋をした。
「実は運営に元マフィアの、弟がいる部下がいてね。運営の監視カメラ室はその弟が一人で異能を使って番するらしいんだよ。時間もきちんと聞いているそうだ」
「それと僕たちの異能がどう関係あるんでしょうね?」
  もうそいつのことを拘束して気絶させろと言われているも同然なのだが、兪華は営業スマイルをつくってそう言った。
「運営に害を与えてはいけないというルールはないしね。カジノに銀の星はあるとルールにはあるが、必ずしも賭け事で受け取るようには書いてない。さらにイカサマで十個まではとっていいとされている。無論カジノには十分な銀の星があるのだろうが、運営にストックがないはずがない。つまり協力者の人数分×十個の星は盗んでもバレなければいいというルールなんだよ。どうだね?」
  申し出を断る理由はないな。兪華はそう思った。湖緑はいまだに透龍のことを快く思っていないようだ。表情に不機嫌が張り付いている。
「ひとつ合点のいかないことがあります。軍人を共犯に選ぶ理由はなんです? 紅龍会には兵隊がたくさんいるでしょう、私たちの協力を仰ぐ意味がわからない」
  湖緑の質問はもっともだった。兪華もそれには納得していない。透龍は顎を触って笑っている。髭も生えてないのに癖だけは老人そのものなのだなと思いながら兪華は煮詰めた。
「まさかヴェラドニア軍、特に君たちの顔に泥を塗るような真似をすると思っているのかね? そこはどう身を保証しようか。部下は偽造書類を作るのが得意でね、どんな書類もたちどころに作ってくれるだろうが、証拠になるようなものではない。君たちもマフィアとの契約書なんて持ちたくないだろう? こちらの誠意を仮に実感できないとしたら、仮に君たちの身の安全が脅かされるようなことになったら、この透龍が責任を取ろう。老人の命ひとつくらい若者たちのために賭けてもいいぞ。安心したか?」
「まったく安心できませんね」
  同意だ。こちらが死んだあとに守ってくれえるという保証など何もありはしないのだから。湖緑をちらりと見れば、杖に篭める力は一向にゆるめてない。
「じゃあ、こちらからも条件を出します」
  兪華はぐいのみを口に傾けて、空になったものをカウンターに置くと透龍に言った。
「あなたの命一つで僕らの命を買えるなんて甚だ勘違いもいいところだ。僕たちが使えてるのはグラーク元帥です。あなたにはまだリターンももらっていないのに、どうして命を投げ出せるというのですか?」
「じゃあ交渉は決裂と思っていいのかね?」
「人にお困りなんでしょう? 今の話を聞いている限りだと、紅龍会の人間では用が足せないから危険をおかしてまで僕たちに連絡をとってきたと踏むのが筋です。ならば、僕たちを嵌めたというより、僕たちは客人なはず。取り分は必ず銀の星二十個です。僕と湖緑くんの分を必ず保証すること。どんなに取り分が少なくても、必ずその中からこの数をこちらにください。ならば協力します」
「ふむ」
  透龍は兪華の提案に顎をもう一度撫でて「しっかりしているな。まあいいだろう」と言った。当然である。山分けをしてやる義理などないのだ。
「それで? 作戦はあるんですよね」
「無論。書類は残したくなかったので口頭になるが構わないかね?」
  まるで頭の出来を疑われているような言い草にややカチンとくるが、こくりと頷く。マフィアの相談役と言われる最古の男が作戦について口開いた……。

 

 ゲーム当日。ホテルの四十七階にて、ゲーム参加者は銀の星を受け取る。運営の待機する四十八階を飛ばして、四十九階と五十階のカジノフロアーへと向かう。五十一階は空中庭園のようだ。
  正装――といっても兪華は特別いい服を持っているわけではない。同僚の結婚式に着ていくために買ったフォーマル用のジャケットに袖をとおし、ジャケットのウラ側に星を縫い止める。
  部屋を出るとヴェラドニア軍のほとんどはもうカジノに出払っているようだった。準備はわざと遅くした。あまり早く行きすぎても、最初からカジノで稼ぐつもりがないことに運営に気づかれるだけだ。
  壁に体重を預けて待っていた湖緑は兪華の格好を見て「似合いますね」と言った。まるでそういう格好は初めてだとばかりに。たしかに湖緑に見せたことはなかったが、湖緑は東洋の名前に相応しいチンパオという正装をして、頭に自分があげた簪を差していた。
「簪、つけてくれたんだ。へえ」
「捨てようかと思いましたよ」
「でも付けてくれてるってことは捨てられなかったってことだ」
  気に入ったの? とは聞かずに兪華は先を歩き出す。湖緑の歩幅は今日は兪華と同じだった。ヒールの分がなくなっただけ、大股で歩けるようだ。
「湖緑くん、その格好派手だね」
「正装が派手でなくどうするんです?」
「ホテルはとったの?」
「あらかじめ私たちの名前でとってあるそうです。私たちが動かなかったらあのジジイどうする気だったんやら」
「湖緑くん、あのジジイが僕らだけに声かけたと本気で思ってる? 遅れたのは部下を説得してたからじゃなくて他の人の説得をしてたからだよ。ホテルの名義くらいちょっとお金払っていくつもとっておけばいいだけだし、透龍は昨日最低三組くらいには声をかけたんじゃないかな?」
「軍とギルドと運営ですか?」
「軍が引っかかったわけだ。正確には星に目が眩んだ、僕と君が」
  タクシーに乗ってホテルまで移動する間、運転手に話は聞かれたくなかったので二人とも無言だった。

 到着。フロントにてチェックインを済ませてすぐにホテルの部屋へ移動。高級ホテルと言うだけあって、内装は上品かつ恋人仕様の造りだ。あまりこういうところに男二人で泊まっても意味がないと感じてしまう。
  透龍に言われたとおりベッド下を確認すれば、そこには荷物があった。中身を簡易チェックして、当然だがひとつも見落としがないのを確認すると、鏡の前で歪んだ蝶ネクタイとハンカチーフを直した。湖緑も顔のおしろいを直している。支度が終わったら、鍵をかけてエレベーターで四十七階へと上がった。
  入り口で金の星を提示。引換に銀の星を十個ずついただく。それをプラスチックのケースに入れたまま小脇に抱え、階段を上がった。
  カジノは当然ながらすごい熱気だった。少しでも気後れすれば、このシエルロア中の勢力が集まった巨大なカジノで遅れをとると思った。見知った顔の連中が顔を赤くして、慣れない賭け事を真剣にやっている。湖緑と兪華はそのままカジノの中を人にぶつからぬよう歩きながら見学した。
  人気はまちまちだが、やはり軍人のような動体視力の訓練をしている者たちはスロットを好むようだった。他はよくわからない。
「誰か今、私のお尻触っていったんですけど」
  さっそく痴漢の被害にあった湖緑に
「ちゃらちゃらした女みたいな格好してるからだよ」
  と揶揄するように言った。湖緑は黙っていれば女と勘違いするくらいには美しい。
「褒めてないですよね、それ」
「似合ってるって言ってなかったね。ちゃらちゃらした格好似あってるよ、湖緑くん」
「絶対褒めてない」
  機嫌を損ねた湖緑を放置して、視線を巡らせる。きっと給仕をやってるのもディーラーをやってるのも一般人ではなく運営の人間だ。
  近くの給仕からマティーニを受け取り、湖緑に渡そうとするが、そんな強力な酒はいらないと拒否される。仕方なく二杯とも兪華が飲むことにした。
「マティーニのオリーブって嫌いなんだよね。湖緑くん、お肌にいいオリーブの実だけ食べてくれない?」
「なんですか。酒びたしのオリーブがお肌にいいわけないでしょう。好き嫌いしないでください、とったのはあなたなんですから」
  オリーブの実をいちいちかじるには両方の手がカクテルグラスで埋まっていた。
  兪華と湖緑は壁の端までいってそこから周囲を見渡した。人でごった返していて、もう何がなんだか分からないが、ともかくみんな真剣だということだけはわかった。まあカジノでファミリーポーカーの延長のような気持ちでいたら素っ裸になって帰るハメになることくらいは二人とも知っている。まして、金ではなくシエル・ロアの支配権をめぐって争っているのだから。
「強いお酒を二杯も飲んで、あとで響いてもしらないですよ」
「酔うと思うの? それくらいで」
「酒に強いって不健康な証拠ですよ」
「わかったよ、もう飲まない。給仕にグラス返してくる」
  兪華は壁際に湖緑を残すと給仕を探した。幸いすぐに給仕は見つかり、お盆の上にグラスとオリーブを返却した。人の流れに飲まれないようにしながら、湖緑の元に戻る。
「お姉さん、デートしてくれるなら銀の星ひとつくらいあげるよ?」
  ちゃらちゃらした男が湖緑を女と勘違いしているらしく、銀の星をちらつかせながら彼の肩に馴れ馴れしく触れていた。湖緑は男が酔っ払ってるのを知っていたので、あまり相手にする気がないらしい。男だと説明したところで判別する力もなさそうなくらい顔が真っ赤だ。言ってることもループしている。
「お姉さんはなんもわかっちゃいない! あんたみたいな世間知らずは俺についてくればいいんだ。俺はあんたぐらい養えるよ。だって俺はジンクロメートギルド団に入ってるんだから」
  だからどうしたの? という冷ややかな表情を湖緑がしていることに彼は気づいていないようだ。なんだか可笑しい光景を見て笑いをこらえていると、先に湖緑に気づかれた。
「兪華さん、このうざったい男どうにかしてください」
「お姉さん、俺はあんたを守るよ! だって俺はジンクロメートギルド団にだな」
  また繰り返している。やれやれと思って兪華は湖緑と男に近づいた。壁際に追い詰められてる湖緑と男の間に半ば強引に割って入り、「ごめん」と言えば、男はさっさと諦めて姿を消してしまった。
「諦めたね」
「あなたを恋人かなんかだと思ったんじゃないでしょうかね? そして私を女だと思ってたみたいだし」
「それだけ綺麗ってことの証明じゃないの? それで絡まれてちゃ世話ないけどさ」
「ありがた迷惑です。綺麗にしてるのはああいう輩のためじゃないので」
  兪華は「ふうん」と呟いて、湖緑の耳の近くに手のひらを置いた。湖緑に自分の影ができるような格好で向かい合う。
「なんです?」
「グラーク元帥のために綺麗にしてるんでしょ? 変なのから守ってあげようと思って」
「グラーク元帥に変な思いなんて抱いてないですよ。兪華さんの馬鹿」
「……なんか普段と違うなあと思ったら」
「なんです? 聞いてないですね。私はグラーク元帥に色目なんて使ってませんよ」
「そうじゃなくて、ヒール脱ぐと僕より少し小さいんだなーと思っただけ」
「ああそう」
  心底マイペースな兪華に湖緑は呆れたらしい。そのまま、肘を折り曲げて壁にさらに近づいた。距離が縮まり、湖緑の顔が近くなる。このままキスもできそうな距離だなと思ったが、そのまま肩に額を落とした。
「なんです? あなたまで私が女に見えたとかそんなこと……」
「湖緑くん、酔い回ってきた。すごくくらくらする」
「だからマティーニを駆けつけ二杯はよくないて言ったじゃないですか!」
  耳元で大声を出されて鼓膜がじーんと震える。めまいが止まりませんと湖緑にしなだれかかると、湖緑は本当に情けない男を見るような目で見て、肩を貸してくれた。しかし枕替わりではなく、衛生兵のところまで連れていくときの格好だ。
「開けてください開けてください。急性アルコール中毒の間抜けが通りますよー」
「湖緑くん、ゆっくり歩いて。マジ、吐く」
  うつむき気味にそう言うが、湖緑はここで吐かれたらたまらないとばかりに大声で人をかき分けた。兪華を支えたまま階段を下りて、ホテルのある階下までエレベーターで降りた。エレベーターの入り口には銀髪のオールバックの男と青い髪の女がべったりと腰に腕を回し合って兪華たちと入れ替えで会場へと向かったようだ。
  ようやくホテルの部屋に着くと、湖緑は兪華のポケットからカードキーを取り出してそれで扉を開けた。中に兪華を担ぎ込み、そしてすぐに突き飛ばす。
「着きましたよ」
  ぱんぱん、と手をはらう湖緑。体重を全部預けていたために前につんのめた兪華は床には倒れなかったが、そのまま数歩たたらを踏むとそのまま何事もなかったかのように背筋を伸ばした。
「僕の演技どうだった?」
「上出来です」
「上手いとは言ってくれないわけね」
  あれだけ騒いでおけば兪華は泥酔、湖緑はそれの看病で一日を棒にふったと運営は勘違いするだろう。
ジャケットをベッドに放り投げて、シャツとズボンを脱いで、ベッドの下に隠してあった透龍の用意した作業着に着替えた。湖緑もチンパオを脱ぎ捨てて同じような服に着替え終わる。
「それにしてもこんな高層ビルの非常階段に見張り一人も置かない運営ってなんなの? 本当に見張りいないんだろうね?」
「高層だから風が強くて飛ばされるんですよ。私はそんなところ本当は歩きたくない」
  マフィアの仕事道具を身体のあらゆるところにあるベルトで固定していき、気づかれぬように二人同時に部屋を出た。
  非常階段までの距離はほんのちょっとだ。扉を開け放てば強い風が吹き込んだ。身体が飛ばされぬよう、手すりに捕まりながら外に出る。湖緑もそうだ。階段を昇って四十八階まで来た。湖緑と視線をあわせて、同時のタイミングで中に侵入する。運営の子宮ともいうべき控え室だ。
  元がホテルだというのはとても助かる。見取り図は階下を参考にできるし、扉と床の隙間から漏れてる明かりで人がいるかどうかがわかる。モニターの青い明かりが漏れる部屋は案の定あった。ドアノブを回せば鍵はかかっていない。無用心なものだと思いながら、そっと運営の男の背後にまわった。湖緑が異能で男に拘束をかける。騒がれる前に轡をかませて、手袋をとった手で根こそぎエネルギーを吸い尽くした。しばらくは起き上がってこれないレベルまで行い、完全に気絶したのを確認する。無線で透龍に連絡を入れる。
「カメラルーム制圧」
  兪華はビデオの電源をタコ足配線の根本から引きぬいた。一気に部屋が暗くなる。非常電源くらいはあるのだろうが、コンセントが抜ければそんなものは関係ない。暗くなった部屋の中で息を殺した。

 

 

◆◇◆◇
「ねえ、ヴィーラさん? いいでしょ、透龍じいさんから連絡あるまでもうちょっとかかるよ」
  ようやく人の少ない廊下の柱影を見つけたとき、先によからぬことを考えたのは黒狸だった。
「どうせみんなカジノに夢中でこっちのことなんて放っておいてくれるって」
「あのねえ、人に見られるかもしらない場所じゃ無理です」
  何をしようとしていて、何が無理なのか。
  黒狸は壁際にヴィーラを追い詰めると顔を近づけてキスをねだった。唇を重ねて、何度か啄むようにして舌を絡める。
「ねえ、お願い。ヴィーラさん」
「駄目、駄目だってば」
「ヴィーラさんの可愛い顔見ていたらなんかこうね……我慢のできないお馬鹿さんですみません。今すぐ欲しいです」
  もう一度強引にキスをする。確かめるように、彼女が嫌がってないのを口唇の動きで確かめた。少しずつハードルが下がっている。あともう一歩だ。
「ヴィーラさ……」
  とろんとした目のヴィーラをあと一歩、ドレスの間に脚を割り入れたときだった。懐に入れていた携帯が鳴り始める。
「仕事入りました」
  泣きたい声でそう言うと、黒狸は携帯を取り出して通話ボタンを押した。
「透龍さん、どこで合流しましょう?」
  耳に携帯を押し当てたまま、聞き取りづらい老人の声に耳を傾ける。携帯は本当に彼の声をうまく拾ってくれない。
  やっとその気になったヴィーラが黒狸の指を口に咥えて続きを誘っているが、そんなことをしている暇はなさそうだった。ヴィーラの口の中を可愛がりながらてきとうに透龍に相槌を打つ。ヴィーラが気に入らなかったようで歯を立ててきた。
「いっ!? いえ、なんでもありません。ちょっとルーレットでスッてしまいまして。ええ、大丈夫です。星の数はまだあります。ともかく人気の多くて目立たない場所で合流したいです。俺? ルーレットでスッたって言ったじゃないですか。え? 静かじゃないですよ、騒音だらけで透龍さんの声が聞き取れません。えーとそうですね……今カメラが機能してないなら透龍さんのおっしゃるようにトイレでも構わないです。五十階の便所で待ち合わせしま――いったっ! え、痛くなんてないですよ。痛いじゃなく、言ったでしょう? ってこと。何を? すみませんトイレで会いましょう。やっぱり電波が悪すぎて会話に向きません」
  透龍との話を半ば強引に押し切るようにして中断し、強く甘噛みするヴィーラの口から指を引きぬいた。
「ヴィーラさんったらいつからピラニアになったの? 俺の指美味しい?」
「黒狸がやろうって言って私その気になったのに」
「ごめーん。お仕事入りました」
「馬鹿」
  ヴィーラに謝罪のポーズをとり、そのままばれないように走らず、急ぎ足でトイレに向かった。
  トイレで銀の星が詰まったケースを透龍から受け取る。
「一番楽な仕事なんだから、しくじるなよ?」
「わかってますよ。いってきます」
  ケースを二つ重ねて、換金ルームに向かう。金の星に換金するのは黒狸の仕事だ。
「こんなにどうやって勝ったのですか?」
  一人で勝つにはあまりに多すぎる星を見て、そう運営に聞かれるのは目に見えていた。黒狸は平然と
「カジノでボロ勝ちした人たちから大金で買ったんですよ。どこにでもシエル・ロアの運命なんてどうでもいい輩はいるものですから」
  と答えた。運営の女は少し納得がいかない表情をしたが、それは感情の面のみだったようで、素直に黒狸の銀の星と本来価値のある、金の星と交換してくれた。
  黒狸はそれを持って透龍の元に戻ると、彼に金の星を三つ渡した。
「これが軍人二人の取り分と透龍さんのです」
「お前は真面目に仕事する気はないのか?」
「え。真面目ですよ? ちゃんと換金もしてきましたし、カジノもサボってなかったですし」
  透龍にさっきのヴィーラとのおサボりがバレたかと思い、黒狸は内心ひやっとした。老成したマフィアは首を横に振る。
「ヴィーラの監視はちゃんとやってるんだろうな?」
「ばっちりです」
  即答で、表情も変えずに返事をした。透龍は「情を移すなよ?」と念をおすように言った。
「なんでです? 俺、そこまで甘くないですよ」
「お前は甘いよ。私から見ればずっと甘い。さすがに若造の頃よりは青さは抜けたけど、まだ甘い。ドン・白明はお許しにならないぞ。お前が仕事を辞めればでかく穴が空くし、お前は秘密を知りすぎている。わかるだろう? 言っている意味が」
「わかりませんよ。裏切る気もないのに、命の心配も辞める心配もされる意味が」
  さすが透龍。長く生きた勘なのだろうか。鳳より先に、黒狸の態度に気づいた。それでもしらばくれるしかない。
「私は注意したぞ? 黒狸」
「承りましたよ、透龍さん。心配されるような失敗はしません」
「そうならいいんだがな」
  透龍は星を受け取ると、そのままトイレをあとにした。黒狸はちょっと時間を置いて、先程の廊下でヴィーラと合流した。
「透龍さんと何話したの?」
「お仕事の話。もう終ったよ」
「ふうん。透龍さんっておじいちゃんだね。最近透龍さんとよく相談してたけど、そろそろ種明かししてくれてもいいんじゃない?」
「種明かしってほどのもんじゃねぇけど、ヒントは屋上のプールと水使い」
「え。全然ヒントじゃないよ。それ」
「あとご利用は計画的に」
「それもヒントじゃないし」
「省エネは心がけましょう」
「ああ、エコ派?」
「じゃあ最大のヒントはね、銀の星と金の星はマネーロンダリングで汚いお金を綺麗なお金にするのといっしょ。一度綺麗なお金になったものは二度と汚いお金になりませんし、使えるわけ。綺麗なお金は今回金の星ね。銀の星は汚いお金と同じ。つまり稼ぎ方はどんなに汚くても、結局綺麗な状態になってしまえば終わりってこと」
「黒狸のヒントってすごくわかんない」
「ヴィーラさんに話したってしかたないもの」
  ヴィーラが運営の可能性があるならば話すわけにはいかない。
  雪狐がカメラの監視をする話を聞いたときに、すべては閃いた。彼が一人になる時間を狙い、気絶させてカメラをストップさせる。軍人を使ったのは、全部マフィアの中で回すと運営に勘付かれるのが早いからだ。軍人とマフィアが初対面で手を組むのは時間稼ぎの撹乱にはもってこいだ。兪華と湖緑にはわざと形跡を残してもらい、おとりになってもらった。カメラのやられている間に透龍にプールの水で銀の星をさらってもらう。協力者の人数以上の星はルールに則り屋上のプールの底に沈んでもらうことにした。透龍ももちろん疑われる人間の一人だ。つまりお金を浄化する人は信頼の厚いサラリーマンである必要があるように、星を金に換金するのは何食わぬ顔で遊んでいた黒狸の仕事なのだ。最後に星を透龍に渡して、全員が均等に星を一つずつ手に入れればお仕事完了である。
  雪狐も軍人にやられて兄を疑うことはしないだろうし、ヴェラドニア軍に星が二つ入るのは痛いが、こっちも星を二つ手に入れた。
「あ、さっき私が黒狸に渡した銀の星は?」
「いっしょに換金してきたよ。はい、今日のポーカーはヴィーラさんのお陰で勝てたようなものだからね。これはヴィーラさんの金の星」
  そして最後の一個はヴィーラのものに。これは純粋にポーカーのルールにのっとって稼いだものと、ヴィーラの銀の星を換金したものだ。
「星の数は一個だけこっちのほうが多いわけか」
「黒狸はユンファさんの星なくしたんでしょ? 今いくつあるの?」
「三つかなあ。これで」
「順調だね」
「予定外なことだらけだよ」
「順調だと思うけれど? 黒狸は人を傷つけまいとしすぎだよ。私なんてこの前、拷問体験してきたんだから」
「好きなの? 拷問するの」
「面白かったよ」
  けろっとした顔で言うヴィーラにため息がこぼれる。
「ヴィーラさん、拷問についてどう思う?」
「地味なのが好き。音楽をずっと聴かせるとかそんなやつ」
「違って、されるほう」
「嫌い」
  間髪置かずに、ヴィーラははっきりそう言った。普段まったく顔に恐怖をにじませないヴィーラが、そのときだけ目に動揺を宿らせたような気がした。
「すっごく嫌い」
「そうか。まあ、好きな奴なんていないよね」
  ヴィーラの履歴に愛玩用として飼われていた過去があることを思いだした。主人を殺して逃げるくらいなのだ、何か拷問に近いことをされたことがあるのかもしれない。
「もしヴィーラさんが軍に捕まったりして拷問かけられそうになったらさ、俺の情報でよかったらさっさとゲロっちゃって楽になりなよ」
「うん、そうする」
  あっさり頷くヴィーラに苦笑いを浮かべ、黒狸は腕を腰に回した。尻を少し撫でようとしたら、その手をつねられた。
「次やったら、ヒールで踏むよ?」
「ヴィーラさんのヒールは凶器になるレベルのピンヒールですよね? 穴あきます」
「うん。スケベオヤジにはそれくらいのおしおきが必要だよね」
  素直に謝るべきだなと思って「ごめんなさい」と言った。ヴィーラもあまり気にしていないようだった。そしてピンヒールをはいた脚を動かして、「おなか空いた」と言った。
「飯食いにいく?」
「もう脚が棒」
「じゃ、ルームサービスにしましょう」
「金かかるよ?」
「経費で落とす」
「公私混同」
「社畜はすでに私生活捧げてるからいいの」
  ヴィーラはこちらを見てけらけら笑い「やーい、しゃちく!」と言った。本当はその言葉好きじゃあないんだろうなあと思いながら、「ヴィーラさんは自由だね」と言った。

 部屋につくと同時にピンヒールを部屋の端に向かって脱ぎ捨てたヴィーラは、本当に見た目は自由奔放だった。黒狸のがんじがらめな生き方から見たらヴィーラはずっと自由だった。
「ヴィーラさんは自由だね」
  ともう一度言うと
「女ってだけで窮屈なピンヒールに制限されるんだよ?」
  と疲れた表情で言いながら、ヴィーラはルームサービスの冊子を開き、何を注文するか決めようとしていた。
「ヴィーラさんは自由だよ」
  最後は言葉の語尾を変えて、彼女の未来を信じた。ヴィーラはその言葉には答えずに「よし、マルゲリータだ」と返してきた。
  黒狸はもう一度「ご自由にどうぞ」と応じた。たぬきと人魚の化かし合いは始まったばかり、ゲームもまだ始まったばかりだった。

(了)

第二回戦終了段階

マフィア側:黒狸、ヴィーラ(ただし運営のスパイ)、透龍が各自1つずつ星を獲得。
軍側:兪華と湖緑が星を1つずつ獲得。

公式に発表したものだけが星のやりとりに採用されるのであれば、この段階で
黒狸=星3つ
兪華=星2つ