02
生徒会裁判は視聴覚室を法廷に改造して行われる。法廷に呼ばれるのは抽選で選ばれた人と放送部と広報部のみで、残りは教室におかれたテレビに配信された放送で内容を知るわけである。
いつもに増して派手なセットがされている視聴覚室を見ながら森下が呟いた。
「これが生徒会裁判か。随分と派手だな」
「緊張するの? 森下。アタシは舞台慣れしているから大衆も野菜畑にしか見えないわよ?」
「野菜に見つめられるのも気持ち悪いと思わないか? で、どうなんだ海馬。今回の自信のほどは」
「悪いけれど今回のアタシはね、陸の毒舌と森下の虚言を足して八月朔日先輩の変な要素を足しても勝てないような依頼人だから楽しみにしておくことね!」
「それって逆に揚足とられまくるんじゃあ……」
「だから言ったじゃあない! 楽しみにしとけって」
なんだかヤケクソのように叫ぶ海馬を見て、今回の玉木という依頼人は相当の曲者なのだろう、自分が担当でなくて心底よかったと森下は思った。法廷を一望してから森下は陸の姿がないことに気づいた。
「陸はどうした?」
「化粧直しでしょ?」
「あいつ化粧なんてしてたっけ? 眉毛だっていじってないじゃあないか」
「森下、あんたがいじりすぎなのよ」
そう言ったのは海馬ではなく、陸本人だった。両腕を組んで仁王立ちしている姿からは緊張は感じられない。
「だいたい眉毛抜く男って何? 自分の顔がそんなに気になるなんてあー気持ち悪い。化粧とかしているんじゃあないでしょうね? 少なくとも歯はアパガードで磨いているでしょう」
「ちょっと、男だって化粧くらいするわよ! 八月朔日先輩とか見てごらんなさいよ、いつも髪の毛のセット完璧じゃあないの」
海馬が八月朔日を指差した。既に着席している八月朔日の席の周りにだけ、花が飾られていることのほうが気になった。
「なんで八月朔日先輩のところだけ薔薇が飾ってあるんだ?」
森下がもっともな疑問をもつ。海馬がうんざりしたように言った。
「本当に薔薇飾っているのね」
「何か言ったか? 海馬」
「ううん、アタシ何も関係ないから。玉木なんか関係ないから。八月朔日先輩はあれでしょ? きっと熊傷抱えた依頼人の周りをせめて明るくしようとしたのよ」
なるほど海馬は玉木に何か言われているのだなということだけ理解してふと気づいた。いるはずなのにいない人物。
「空乃は?」
「今日も萌え語で裁判やられたらどうしよう」
「陸、その心配はないと思うよ」
なんとなく確信めいた嫌な予感に包まれて森下は呟いた。その森下の背中をどん、と突く誰かがいる。空乃だ。
「う〜ん、ひどいですぅ。空乃はぁ〜今日のためにー……こんな格好しているんじゃい」
「空乃、どうしたのその頭」
「というかそのメイク!」
いつものふんわりとした顔だちが、ぎりぎりとつりあがった眉に高く結い上げられた髪の毛になっているのを見て海馬と森下がびっくりした。
陸だけが平然とその様子を見て答えた。
「空乃、今日は随分と緊張しているのね。地が丸見えじゃあない」
「地!? いつもの萌え語は!? わざとだったんだ、あれ」
「なんじゃい、あんなん本気でやっていると思っているんかい? あんなぁ放送盛り上げるためじゃけん、それがー沁みついてしまっただけじゃい。それに〜こっちのほうがもてますしぃ〜」
いかつい姿でウインクしてくる空乃から森下は視線をそらした。いつもに増して攻撃力があるような気がする。
「ところで空乃、甲斐はどうなった?」
「佐藤先輩なら秋野さんに捕まって、先に行っててくれって言われたんじゃ」
「あと誰か忘れていたような……ああ、戸浪。戸浪はどこだよ?」
「自分なら先ほどからここにいますが」
「「うわわわわわ!」」
そこにいた一同が同時に声をあげて仰けぞった。
「ごめん、ただのハリボテかと」
「ハリボテとして認識されただけまだ良しとしましょう。裁判はじまりますよ?」
「ああ、じゃあみんな、持ち場に」
千早と佐藤が席につくのを見て森下は法廷の裏に、他のメンバーはそれぞれの持ち場についた。最後にスーツ姿に髪の毛をアップにした聖がヒールの音を鳴らしながら入ってきて、裁判長の席に座ると裁判ははじまった。
「これより、生徒会裁判を開廷します。私語を慎み真実のみを語ることを生徒手帳に誓ってください。でははじめに、候補者の名前を呼びます。一年陸さやか、二年佐藤甲斐、二年玉木彦那、一年秋野千早、三年佐々木亮平、基本的にこの順番で発言をしていってもらいますが異議のある人は好きなときに名乗り出てください。なお異議を却下された場合は食い下がらずに素直にさがること、以上です。では最初に陸さやか、代理人はいないので起立してください」
聖に名前を呼ばれてから陸が起立した。誰にともなく話し声が聞こえた。
「陸さやかってあれだよな? 集団カンニングの……」
それが聞こえた陸は即座にこう言った。
「立候補のアピールをさせてもらう前に一言言わせていただきますが、前回の集団カンニング容疑は私は完璧に無罪が証明されました。あれはいわれもない言いがかりです」
そう前置きしてから陸は演説をはじめた。
「私は東雲高校の自由な校風に惹かれてこの学校に入学しました。たしかにこの学校は色々な部活があって、活動が自由で、そういう部分はとてもいいと思います。だけど悪いことに対して、悪いとはっきり言う人が少なすぎると私は思うんです。私が巻き込まれた集団カンニング容疑でもそうです。私が言っているのは常識的な善悪の基準ではありません。人として最低限必要なモラルがこの学校には欠けています。私はそういったものと戦いたいと思って立候補しました」
陸の言うことはもっともなことだった。東雲高校はモラルがあまりにも低い。何をしても、ばれなければ大丈夫、といった空気が漫然と広がっているのだ。もしばれたとしても丸め込む方法はいくらでもあるといった認識しかない。
陸は曲がったことが嫌いだ。きっとそういうことを根本的に立て直して行きたいのだろう。
すると玉木がすっと立ち上がって発言した。
「異議あり。あんたの言いたいことはうんざり。毎回そんなことを言っては散っていく陳腐な雑魚どもがいるけれどもあんたもその一人ってわけね」
「なんですって?」
陸が眉間に皺を寄せて反応する。玉木は動じることもなく続けた。
「あんたは生徒会長の器ではないってことを言いたいわけ。よしんば生徒会長になったとしても気に食わない部活を潰して終わりね。そんなことをしても東雲高校の暴走は止まらない。この高校は動く城のようなもの、その動力源を止めるにはあんたじゃ力不足だって言っているのよ」
くりくりとした茶色い目を輝かせながら玉木は言う。自信に満ち溢れた姿である。
「知ってる? 東雲高校の株価の動きはめまぐるしいの。あんたそれの次の動きを読んで買い占めることができて?」
「それは……」
「そんなこともできないようじゃあもっと膨大な金を動かす生徒会長なんて無理よ。もっとも、その株価そのものの鍵を握るのが生徒会長だけど。あなた言ったわよね? この学校はモラルがないって。そのとおり、モラルがないわ。だけどあなたみたいな正義感だけしかないような人が生徒会長になったって、東雲高校の金の坩堝につかまって、あっというまにさようなら」
言いよどむ陸に捲くし立てるように玉木は言った。陸は返す言葉も見つからなかった。
しばらくしたところで聖が言った。
「玉木さん、代理人をとおして発言するようにしてください。陸さんは玉木に対して何か反論することはありますか?」
「……ありません」
「ごめんなさい裁判長。可愛い一年生が潰れていくの見るのが好きでたまらないの。数年後期待しているわ」
玉木は陸に投げキスをして着席した。陸は思わずその姿を睨んだ。
サポート席に座っていた森下はくらくらした。
「何が陸と僕と八月朔日先輩だよ。空乃を足したってあの破壊力には足りないだろ」
それくらい玉木の投げキスは破壊力をもっていた。ウインクには空乃で免疫がついていたが投げキスは初めて生で見た。
聖が木槌を鳴らす。
「では次、佐藤の代理人、空乃綺」
空乃は立ち上がると同時に玉木を指差した。
「お前キショいわ!」
誰もが思ったことをずばりと言った空乃に拍手が巻き起こる。空乃は調子にのってまくしたてる。
「だいたいな、金なんてのは経済部に委せていればいいんじゃ。生徒会長に必要なのは明確な志と学校の未来じゃ。佐藤先輩はそこんところ、よろしく!」
「よろしくって何だよ?」
思わず聞いた佐藤に空乃は鼻息も荒く言った。
「思ったままを言うんじゃ」
つまり弁護する気はないのだろう。玉木を気持ち悪いと言い切っただけでも褒める価値はあるかもしれない。佐藤は立ち上がると証言台へと向かって着席した。
「俺が考えるに圧迫しようとするから反発を感じるんだと思います。たしかに陸さんの言うようにモラルがありません。しかし東雲高校は他にはない独自の社会がある。この高校そのものが独自の社会のようなものなのです。学校を動かすのではなく社会を動かす…部活だの委員会だの言っても所詮は人の集まりです。部活が悪い、委員会が悪いだのといったのは違う。あくまで本人の問題です。俺は組織の成り立ちが悪いとは思っていない。先輩から後輩への移り変わりに伝統というものがあります。東雲高校の今までは、先輩たちが守ってきたものを守ってきて、今の自由な社会ができあがりました。これからは先輩たちが守ってこなかったものを守っていく社会をつくるべきではないんでしょうか。東雲高校を大人か子供かと譬えるならば思春期の青少年のようなものです。どれだけだってこれから変わっていける。そのこれから成長していく青少年の礎となるべき柱をつくるというのが生徒会長というものじゃあないんでしょうか。以上です」
あちこちからぱらぱらと拍手が巻き起こる中で玉木が海馬の足を踏んだ。思わず海馬が「いっ……」と声を洩らしたのに対して、聖が反応する。
「海馬くん、異議ありですか?」
「い、異議ありよ」
まったく今の発言に問題があるように思えなかったが海馬はのろのろと立ち上がった。玉木の命令だ、しかたがない。
「今の発言、陸の発言は成功者たちの行く末ばかりを考えているわ。あやまちを、いえ……ちょっとしたミスだって陸の集団カンニングのように大きく発展することだってあるわ。その個人のミスだと言われて傷ついていった人たちのケアーはどうなっているのかしら? インクを乾いた紙に落とせばその染みだけですむけれども、東雲高校は湿った紙……いいえ、ウェットティッシュに等しいくらい影響力がある。それを個人の責任とするのはあまりにも無責任すぎるし広がった染みをどうするかの対処もまったくされてないわ!」
思いついたままをしゃべった割にはわりとまとまったほうだと海馬は思った。が、玉木は更に要求してくる。足をぐりぐりと踏まれながら海馬はひそひそ声で玉木に言った。
「これ以上何言えってのよ? あの男、隙がないわよ」
「あんたも私の弁護士ならばちゃきちゃき揚足とる。なければつくればいいのよ」
そう言うと玉木は海馬が止める間もなく立ち上がると話しはじめた。
「佐藤くん、あなたビリヤードは好き? 好きよね、ビリヤード部ですもの。私が一年生のときに佐藤くんが新記録を出したとききました。とっても驚きました。なんと、硝子を9枚割ったそうね。ナインボールで、ゲームのごとく。今だに九枚も硝子を同時に割った生徒なんていないそうよ? どんな部活にしたってねぇ。しかも、その硝子の修理、結局部が払ったんでしょう? 個人の責任だって言った佐藤くんの発想から離れたことをそのときあなた言ったのよ。『だって先生、先輩たちがやれって言ったんだもん』これってどうかしら?」
空乃がテーブルを叩くとだん、と立ち上がった。
「異議あり。話のひっぱりかたがちょっと強引過ぎるんとちゃうか!? 今のはただの器物破損じゃ。わしだって放送部の先輩たちが萌え語でしゃべれって言ってしゃべってたんじゃ。誰だってそういうことはあるわい!」
「でもね、空乃さん。やってしまったんだからしかたがないとそれにノってしまった自分の愚かさを呪って残りの二年を生きられるものと、そうでないものがあるんじゃあないかしらね? たしかに今のは器物破損、軽いわね」
たしかに器物破損は内申には響かない。しかし首席の生徒が器物破損をしているという事実だけで傍聴席には影響があった。聖は気にせず続ける。
「次、玉木の代理人の海馬白雪。どうやら玉木さんはしゃべりたくてしかたがないようなのでたっぷりとしゃべらせてください。あとのふたりのときにしゃべらないくらいたっぷりと」
「それは無理じゃあないかと思うけれど……じゃあ玉木先輩、どうぞ」
海馬が結局活躍する場を奪われて目を押さえながら言った。玉木は嬉しそうに立ち上がった。
「私が生徒会長になった暁には、革命を起こします。さっきも言ったけれども東雲高校は動く城のようなもの、根っこでも生えなければ止まらないわ。たとえ根っこが生えていたとしてもそれはしっかり東雲高校を支えることができるのかしら? 私が目指すのは強者のみの残れる世界よ。学園戦争、これぞ私の目指すもの。自由自由というのならば、生徒会なんてなくなっちゃえばいいじゃない。そんなのがあるからこんなくだらない裁判なんてやっているのよ。まったくもって馬鹿げているわ。変えるのは部活でも学校でも社会でもない……生徒会よ」
あまりに大胆な発言に一同は絶句した。みんなにはここ最近、海馬が疲れていた原因が掴めてきたような気がした。
こいつは突拍子もなくモラルが欠如している。そこで戸浪が立ち上がった。
「玉木さんは、おかまですね?」
「はああああ?」
誰の口からともなく戸浪の問いに声が洩れた。玉木はぱっちりした目のままにっこり笑って言った。
「男とか女とか、関係あるのかしら? 海馬くん、私たち侮辱されているわよ」
「ちょちょちょちょ、"私たち"って何よ。戸浪!? 玉木さんって男なの!? い、いまのはすごい言いがか……」
「私、男で〜す」
玉木の発言に海馬が絶句する。女子生徒の制服を見事に着こなした、声さえも女そのものの玉木は言った。
「……で、それがどうかしたの?」
「それはなんらかの主義主張があってそうしているんですか?」
「私がそうしたいからしているに決まっているじゃあない」
「自分がそうしたいから、なんて安易な理由で親のくれた性別を入れ替えるような方は、同じような理由で学校も捨てるでしょう」
なんだか妙に説得力のある断言に玉木は絶句する。戸浪はそれ以上は何も言わずに「以上です」と着席した。玉木はしばらくして我に返って憤慨する。
「そんなことないもん! 彦那女の子だもん。海馬くんみたいに中途半端じゃあないもん」
「アタシのどこが中途半端だってのよ!?」
がみがみと言い合っているところを聖は木槌を振り下ろした。
「戸浪、次どうぞ」
「自分からは特にはありません。千早さん、何かありますか?」
「いいえ。次に流してください」
「わかりました。次、佐々木の代理人、八月朔日」
今まで主張の激しかった面々に比べて何も主張しなかった千早と戸浪はかえって目立った。八月朔日は冷静に分析する。何かを言えば玉木に揚足をとられるだろう、しかし何も言わないというのは傍聴席に不信感を与える。あえて「何かあるか」と聞いて、「何もない」と答えることで、揚足をとられることなく事なきを終える……無難な作戦ではあるが、生徒会長になるにはいまひとつ足りない。つまりは生徒会に入れればいいということなのだろう。
「あの……裁判長、今ちょっと個人的に頭にきていることがあるんだけど言ってもいいかな?」
くだけた口調で聖に問いかけた八月朔日に対して聖は静かに頷いて「どうぞ」と言った。
八月朔日は安心したように指を玉木に向けると口を開く。
「俺のまわりに花飾ったのお前だろう! そして佐々木立候補者と俺はナルシストとでも言うつもりだったんだろう! 俺の人格疑われるからやめてほしいんだ」
「異議あり! 八月朔日先輩は勉強している時以外ずっと手鏡を見ている!」
「鏡を見て髪型のセットが乱れてないか見るのの何がおかしい!?」
海馬の言葉に八月朔日が反論した。
「「おかしい!」」
その場の殆どの人間が声を重ねた。静かに聖が言った。
「異議を認めます。八月朔日はナルシスト」
「聖ちゃん! 今の言葉すごく傷いたよ」
「その嘘泣きやめないと法廷侮辱罪で摘まみ出しますよ?」
「はい、やめます」
八月朔日が黙りこんだところにすっ、と千早が手を挙げた。
「あの、八月朔日先輩の気持ち、私少しわかります。俳優やモデルやっていると自分の顔をいつも思うとおりにセットする必要があるんです。カメラの前ではみんな笑いますよね? あれと同じでスイッチいれるんです。弁護士って大変ですよね? 八月朔日先輩」
「そうそうそう! それが言いたかったんだ」
階段から突き飛ばしたのも千早ならばナルシスト説を否定したのも秋野千早。敵をつくらない作戦なんだろうかと隣の戸浪は思った。
容疑の晴れた八月朔日はあっさりしたもので、髪の毛をさらりと掻きあげるとしゃべりはじめた。
「玉ちゃ……玉木くんは大変個性的な意見を述べてくれたけれども生徒会を潰してだから何になるっていうんだろうね。はっきり言わせてもらおう、壊すのは創るよりもずっと簡単だ。部活を潰すだの、生徒会を潰すだの、そんなことは時代に委せておけばいい。いらないものは淘汰されていく運命にある、問題は何をつくっていくかだ」
だん、とテーブルを叩いて八月朔日は言った。
「ここの熊傷もった男がやろうとしていることは東雲高校に健全さをもたらすことだ。この学校のありかたは学校という軸を既に飛び越えている。鳥が鳥であるように、人間が人間であるように、生徒は生徒であって他のなにものでもない。小社会なんてことを言っているけれども未成年が大金を動かしたり、犯罪を犯したり、潰しあったり、そんな姿を大人は決して望んではいない。自由と無法は違う。ここは自由な学校ではない、無法地帯だ。佐々木亮平はここに声明を発表する。彼が生徒会長になったあかつきには経済部は廃部、流通を完璧に一度止めてから生徒会が管理する。部活の左遷制度を廃止して、校則を再検討することを約束しよう。みんな、目を覚ませ。この学校はどこかおかしい!」
この学校はどこかおかしい。
そんな言葉が皆の中に響いた。みんなが思っていてつっこめなかったことである。しかし一度自由を知った者に枷を嵌めるのは難しいことである。それが無法という名の自由だったとしてもだ。
いっせいに野次がとんだ。「ひっこめ佐々木」というブーイングが聞こえてくる。陸が立ち上がった。
「異議あり! この学校はたしかにおかしいわ。自由自由と言って先生たちは何をやっているの。生徒らしいありかたとしてでなく、人間として養うべき正当性を無視した自由なんて私も反対よ」
「馬鹿……」
陸の正義感に満ち溢れた発言に森下が呟いた。案の定「ひっこめ陸」の声も聞こえはじめる。聖は木槌をカン、と鳴らすと言った。
「お静かに。立候補者たちの主張は終わりました、傍聴席で異議のある生徒はその旨を選挙に向けてください。では討論に入ります。最初の証人です」