05/04

 しばらくぶりに訪れたレインマンのアパルトメントは、壁を新しく白く塗り替えられていた。
「リフォームですか?」
「似たようなものです」
  レインマンはギーから籠いっぱいに作ったマシマロを受け取って、かわりに紅茶を出した。
「引っ越すんです」
「シカゴ以外のところですか?」
「ええ。ちょっとフランスに帰らなくてはいけない用事ができて、売り払うことにしました」
「だから壁を塗り替えたんですね」
  レインマンは紅茶を啜っているギーを見つめて、「何か迷ってますね?」と言った。
「僕もイタリアかフランスに帰ろうと思っているんですけど、どっちに次の住処を移そうか迷っていて…」
「ええ、知ってます」
  先に思考を読み取ったならば意味ありげに聞かないでほしいもんだな、と思った。
  レインマンはマシマロを食べながら「あなたがここに来たのは必然です」と言った。
「必然?」
「ええ。僕は残念ながら未来を予知する力はありませんが、ギーくんがここに来たときに僕がなぜフランスに帰らなくてはいけない事情ができたのか、理解できました」
「といいますと?」
「フランスで住む家を探しているのでしょう? 僕の実家はシャンティーのほうにあるんですが、君が新居を見つけるまで少しくらい世話をしてあげても構いませんよ」
「いえ、そんな……悪いです」
「言ったでしょう。必然だと」
  レインマンは棚の上から小さな香水瓶をとってギーの目の前に置いた。
「妹から送られてきたものです。彼女が言うには、『兄さんはふたりで帰ってくる』そうで、そしてその相手にこの香水を渡すように言われました」
「妹は予言者ですか?」
「ちょっとばかり予知夢を見るだけの、調香師ですよ」
  ギーは香水瓶の蓋をあけて、香りをたしかめた。男物の香水とはとうてい思えない、セクシー系の香りである。
「これ、僕がつけるんですか?」
「僕がつけるにはちょっとどぎついんですよね。いかにも男を落とすぞって女のつける香りで」
「はあ…」
  尚更自分には似合わない香りではないか、とギーは思った。
「レインマンがそう言うということは、僕はフランスに帰るべきなんですね?」
「そういうことですね」
  レインマンは紅茶を啜って、出発の日時をギーに教えた。そこまでに荷物をまとめなければいけない。