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「なーににやついてるのよ」
  新年。ベリンダの家を訪れたとき、俺は幸せでにやにやしていたらしい。紅茶をすすりながら俺は言った。
「いやね、俺正直、お前があいつにとられたとき、すごくショックだったわけ」
「何度も聞いたわよ」
「もうお前くらい俺に相応しい相手なんて見つからないと思っていた」
「私があんたに相応しくても、あんたが私に相応しくないでしょ」
「ところが俺ったら、今めちゃくちゃ幸せなわけ。やっぱさ、愛し愛されっていいよな。必要とされているっていうの? あいつに俺が必要で、俺にあいつが必要って状態」
  俺が浮かれに浮かれてそう説明すると、ベリンダは呆れたようにため息をついて、笑った。
「あんたがそれだけ愛する相手が見つかってよかったわ」
  俺はそれに何も答えず、ただ満足げな笑みを返した。
「ところでローとお前はうまくいってるわけ?」
「当然。何よ、何度それを聞けば気がすむの? あなたには可愛い彼女ができたんでしょう。私のことは忘れなさいよ」
「まあそうなんだけどさ……」
  俺は面白くなさそうに呟いた。ベリンダが眉をひそめて、声を低くする。
「まさかあれだけのろけたあとに、『お前のことが忘れられないんだ、ベリンダ』なんて言い出すんじゃあないでしょうね?」
「いや、いや! 言わない、言わないってば」
「じゃあなんでそんなこと聞くのよ。言っておくけど、たとえローと別れる結果になってもあなたのところに帰ったりしないからねっ」
「たりめえだ。幼馴染の破局を願うほど俺は腐っちゃいねえよ!」
  ばり、とクッキーを食べながら俺はそう言った。本当にそうだろうか。どこかでベリンダが帰ってくることに期待している俺はいないか?
「私はちょっとだけあんたに悪いことしたって思っているのよ? 疎開させてもらった先で勝手に結婚しちゃって、あんたからしたら寝耳に水だっただろうし」
「お前が結婚するのに俺の許可がいるのか? いらねえだろ。俺はお前の婚約者でもなければ、両親でもない。ただの幼馴染だ」
  ベリンダはその言葉を聞いて「そうね」と言った。
「ただの幼馴染だわ。だからあんたにも幸せになってほしいのよ」
「わかっているよ」
  俺は今、シャルロッテと恋愛していて楽しいはずだ。そう自分に言い聞かせた。