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「ヴィリー、ヴィリー、シャルロッテちゃんとクラーラ見なかったか?」
「遊びに行くと言っていたぞ」
  よく遊んでいるふたりの姿が同時に消えたものだから、とりあえずヴィリーに聞いてみたらいきなりビンゴだった。
「どこ行くって?」
「シェラーハの祭壇だ。兄さんが前に兵士たちを生理痛にするシェラーハ神の話をディートハルトにしていただろう。シャルロッテがクラーラに話したら、クラーラが興味を持ったようだ」
「生理痛に興味あんのか? クラーラの奴」
「『ルーがピンチのときに悪い奴らのおぽんぽんをいたいいたいにした女神様がいるんだって』みたいな説明だった」
「その場にいたのか。おぽんぽん、久しく聞かない言葉だな」
  シェラーハの祭壇はシュトックハウゼン領とアンハイサー領の境にある、ちょっと入り組んだ祠だ。迷子になる前に迎えに行ってやるべきかな……と思った矢先のことだった。
「ルーベルト、さっき主人から電話が入ったんだけど」
  ベリンダが部屋に入ってきた。
「それはともかくとして、クラーラはどこに行ったか知らない?」
「シャルロッテちゃんといっしょにシェラーハ祭壇に行ったとさ」
  ベリンダの顔色がさっと変わるのがわかった。
「おいおい、どうしたんだよ。シェラーハ祭壇は俺たちも秘密基地にしただろ? あそこの女神像の鼻にマッチ詰めたりしたじゃあないか」
「危ないのよ! 今、ローから革命家たちがあそこを根城にしているらしいって情報が入って、それを伝えようと――」
「シャルロッテ!」
  ベリンダが最後まで言うのを聞かずに、俺は走り出した。
「ヴィリー、お前の駿馬借りるぞ!」
  シャルロッテが危ない。そのときの俺はクラーラより先にシャルロッテのことを考えていた。馬鹿な俺は剣も銃も持たずにともかく馬で急いで向かった。悪漢たちに見つかる前に俺があのふたりを見つけないと。
  俺は馬を近くの岩場に繋ぐと、中に入った。奥からクラーラの泣き声が聞こえた。遅かったか? と思ったが、男たちの声が不自然だった。なんかこう、苦痛に喘ぐような声なのだ。
「シャルロッテ、クラーラ、大丈夫か?」
  俺は駆け寄った。周囲でひくひくしている男たちをまたぎながら、クラーラを抱き上げて震えてるシャルロッテを保護した。
「とりあえず出よう」
  祠の外に出て、馬で少し離れたところまで移動したあと、俺はシャルロッテに何があったのか聞いてみた。
「なんだかよくわからないけど、いきなりみんな、くの字になって呻きはじめたの」
「食あたりかなんかかな?」
「せいりつうだよ」
  俺とシャルロッテの会話に、クラーラが真顔でそう言った。
「女神様のお腹の中で喧嘩しようとしたから、みんな罰があたってせいりつうになったんだよ」
  ヴィリーの言っていたシャルロッテの説明ではおぽんぽんがいたいいたいのはずが、いつの間に覚えたのかクラーラは何度も生理痛を連呼する。
「クラーラ、生理痛って罰ゲームじゃあないんだぞ」
「そうなの?」
「お年頃になるとみんななるんだぞ」
「あいつらみんなお年頃?」
「そうだな。男は女の子と違って、いつでもお年頃でナイーブな生き物だ」
  わけのわからない説明をしながら馬を走らせる。
  遅まきに兵を集めたロートシルトが、原因不明の腹痛で倒れている傭兵たちをしょっ引いて、革命は失敗という形で幕を閉じた。