09/01
怒涛の夏休みも終わって新学期が始まり、僕は特別監査委員長を辞めなかったけれども篠宮さんは生徒会を引退した。
始業式に山田生徒会長が代表で演説をした。山田……お前はその壇上から何を見ているんだ?生徒の代表は何を知っているんだ? 生徒会長なんだから生徒会のメンバーのことくらい知っているんだろうな?
篠宮さんの事情を山田は知っているのか?おせっかいなことはしないつもりだ、聞いたりはしない。聞いてなんになるっていうわけでもない、篠宮さんがちょっと同情されてみじめな思いをするだけなことくらい僕にだってわかる。
「篠宮さん、夏休みの間はおつかれさま」
「あー三芳じゃん。あんたも疲れたんじゃあない?というか卒業まで監査委員やるつもりってあんたのバイタリティに敬服するよ。受験勉強大丈夫なんだろうね?」
「僕はいつも5位以内だからね、知らないわけじゃあないでしょう? 相模第二高校を受験したって落ちないよ」
「第二に行くの? あんた相模高校の学ラン好きなんだと思ってたよ」
「まあ学ランがいいけどさ……僕の成績だったら自然と第二に行かされるんだよね」
「くだんねー、親や学校のプライドのために第二に行くなんて三芳らしさのかけらもないや」
篠宮さんが笑った。なんだか……かちんときた。
「僕らしさってなんだろう?」
「え? 泣く子も黙る恐怖の監査委員長でしょう」
「へえ。冷徹な仕事ぶりをしていれば僕だと思ってくれるんだ」
「いやそこまで言ってないけれど……」
「君を見ていると僕らしさってなんだろうって思うよ。君を殺してしまえばまた僕に戻れるのかなって」
篠宮さんが少し眉根を寄せて、苛ついた表情をした。
「三芳が私を殺せば自分に戻れるんだったらそうすりゃいいじゃんさ。痛いのとか嫌いだから奇麗に殺せよ?」
「ああ本当、殺したいよ。本当に君なんて消えちゃえばいいのに、奇麗サッパリ、僕の過去にも未来にも現在にも存在していなければよかったのによりによって相模中学校になんで君がいるんだろうね」
僕は踵を返して自分のクラスに向かった。
篠宮さん、僕は君に存在するなと言っているわけじゃあない。君の存在できない世界なんて存在しなければいいのに、いっしょに全部終わっちゃえばいいのにと思っているだけ。
中学校で終わっちゃえばいいのに。みんなしんじゃえばいいのに。