09/14

「篠宮、このたらこにぎり賞味期限3日前だぜ?」
  山田が篠宮さんのおにぎりの賞味期限を見てそう言っているのを見たのはたまたまCクラスに行ったときのことだった。
「あれ? おかしいな、もうそんなに経ってた?」
「まだ残暑もキツイんだし、こんなの食べるとお腹壊すって」
  ぽい、とそのおにぎりをゴミ箱に捨てた。
「何すんだ山田!?」
「怒るなよ篠宮。腹壊して下痢にでもなったら大変だろ?」
  山田は知らないんだろうね。篠宮さんが隣町のコンビニで賞味期限が切れた弁当を貰ってきて食いつないでいることなんてさ。
「少しくらいお前ダイエットしたほうがいいんだよ」
「私のどこが太ってるってんだよ!? バンキュッボンとすばらしい体型だろ、うらうら!」
「胸でかいけどケツでかすぎだろ、ありえんでかさ」
  山田がそのまま笑いながら僕の横を通り過ぎていった。篠宮さんが僕に気付いた。
「篠宮さん弁当ないの?」
「三芳の弁当くれるってか? ええ!?」
「相変わらず口悪いね、篠宮さん。君は文字奇麗なのに声汚いんだよ」
「だからなんだってんだよ、文字も顔も声も奇麗なお前に私の声が汚いとか顔が汚いとか言われても何も言い返せないからやめてちょうだいよ」
「顔が汚いなんて言ってないよ。ねえ、僕もお弁当忘れたんだよね。今からラーメン食べに行くつもりなんだけど君もいっしょに食べに行かない?」
「金ないんだよ! 知ってるだろ三芳」
「知ってるよ。僕がラーメンも奢れないような男だと思うな」
  篠宮さんが口を一文字に結んでいるので僕も口を同じように結んでみた。眉も吊り上げたので僕も負けじと吊り上げてみる。
「三芳のやさしさってきっと気付かない人多いんじゃない?」
「はあ? 僕のどこがやさしいっていうんだよ、僕がお腹空いてるんであって君の弁当がないことをたまたま知ったから誘っているだけでしょう」
「そういう言い方すると私も意地張ってお礼が言えなくなるからやめてよね!」
「やめてよねはこっちの言い分だよ。お礼?気持ち悪い」
「意地っぱりだね!」
「じゃあこう言えばいいのか?篠宮千恵さんお願いだから奢らせてくださいとでも。そこまで言ってやる義理はないんだよ、食べに行くの?行かないの?」
  篠宮さんが憤慨したような表情をして僕の手を引っ張って昇降口のほうへと向かった。君はどうして僕に「助けて」って素直に言えないんだろうね、僕はどうして「君を助けたい」と言えないんだろう。