02真夜中のピザ

「ピザ食いたくないか?」
  狐のオフィスは真ん中で集まれるフロア以外は小さな小部屋に分かれている。
  俺とエルムのデスクは向かい合わせで狭い部屋の中に押し込まれていて、まるでうさぎ小屋かと思うような環境で仕事をしている。
  彼女の机には女の子らしいマグカップやマグネットが散らばっており、俺の机の上には乱雑に食べたあとのコンビニ弁当や栄養ドリンクが散らばっている。
  壁際にはダースで買ったレッドブルとギャバ。チョコレートの糖分と栄養ドリンクだけじゃあ食事をした気分になんてなれやしない。
  時刻はそろそろ終電が終わる頃だ。つまりエルムは今夜泊り。そして俺も仕事の量を考えるとキリのいいところまで終わりにしてから朝帰宅したほうがよさそうだと判断した。
「夜中にピザですか?」
「うん。だって腹減ったろ? たしかどっかに宅配があったはず」
  がさがさと新聞をどかして中から広告を発見する。エルムのほうに差し出すが、彼女は首を横にふる。
「太りますから」
「ダイエット中? 男なんて痩せすぎていると抱き心地が悪いと言って、標準体型だとデブって言う身勝手な奴らです。そんな奴らのためにダイエットする必要なんてありません」
「自分が体型維持すらできない怠慢な精神になりたくないだけですから」
  まるでピザを夜中に食べる上司は怠慢だと言いたげな視線に耐え切れず、広告を引っ込める。
  携帯に手を伸ばし、ピザをてきとうに注文する。チキンとグラタンもつけた。
「エルム」
「ピザはいりませんよ。一人で食べてください」
「デラックスサイズで注文しちゃった」
「!? なんでそんなサイズで……」
「今なら1サイズ大きくできますよって言われて」
「……馬鹿ですね」
「お願いです。いっしょに食べてください」
  俺のお願いにエルムははぁと溜息をついた。だってそうでも言わないと何も摂らずに仕事をずっと続けるつもりでしょう。お嬢さん。