03愛する部下A

 うちの部下はとても気難しい。愛してないよという態度をまるっきりとると傷ついたような顔をする。しかし愛してるという態度をとろうとするとただの上司の分際で気持ちが悪いという態度をとられる。
「どうせ消耗品なんですよね、私」
  耳にタコができるくらい同じことは聞かされたが、彼女を消耗品だと思ったことはない。
  消耗していることは知っているが、擦り切れるまで使おうと思ったことは本当に一度もないのだ。
「エルムさん、愛してます」
「私も愛してますよ。……とか言うと思ったんですか?」
  愛しているのところが既に抑揚のないあたり恋心がないことぐらいわかっている。俺もこいつも。
「愛する部下Aです」
「Bはいません」
  たしかに愛する部下Bはいないけれども。部下Aだけでも大切にしようと思っているのだが。
「エルム、俺思うんだけれどもね……部下Bはいらないと思う」
「はあ? 人員増やせってこの前言ったばかりなのに馬鹿言わないでくださいよ。バカ上司」
「部下A一人で手一杯な俺にBが使いこなせる気がしない」
「無能上司」
「俺の愛する部下Aに愛されてないのにBに愛される気がしない」
「当たり前じゃないですか。仕事しやがりくださいクソ上司」
  馬鹿、無能、クソときやがった。
  これだけ言われているのにこの部下のことが大好きなのだから困る。