07見抜く部下&騙す上司

 エルムの異能「バタフライ・エフェクト」は蝶がどこで飛んで雨がどこで降るか知るようなという意味でつけたらしい。相手の異能を見抜き、拡大縮小することも可能な補助系異能だ。
  一方俺の異能「Believe」は自分の信じたものを相手に信じこませるというものだ。ただしこれは相手がまったく信じることのできない内容は信じこませることができない。
「お前の異能と俺の異能って相性悪いようでいい気がする」
  見抜く異能と騙す異能――相性が悪いようで、騙す異能を拡張すれば広範囲を騙すことが可能かもしれないと思ってしまう。
「便利だよな、バタくらい・エフェクト」
「バタフライ・エフェクトです」
  舌を噛んでしまった俺に丁寧にエルムが突っ込み直す。
  今でこそ紅龍会で俺の異能の正体を知っているのは鳳さんと、見抜く異能の持ち主の彼女くらいだろう。
「俺の異能、知ってたり?」
「教えてくれるまでばらしません」
「俺の異能って話すとたぶん効果なくなるからないしょね」
「そうですか?」
「え。だって誰も騙せなくなるでしょ」
  彼女はまったくわからないと不思議そうな顔をした。え? もしかして俺の異能って信じた内容をすりこむのとは違うわけ? しかし答え合わせをするのも難しい。
「あなたの異能は洗脳系じゃないですよ」
「名目上はそうでもね……」
  信じさせる異能といったところで、事実使うときは騙すことに使っている。
「上司がバラしてもくれない異能を否定するほど、私は親切じゃあないですよ」
「異能の本質がその人の本質ってことについてエルムはどう思う?」
「本質なんてそのときそのときで変わるものです。蝶が花をかえたり、雨が移動するかのように」
「そういうものか」
  俺の異能や信じているものが変化することはあるのだろうか。
「ちなみに俺のこと脅すつもりある?」
  異能をバラれたら俺はひとたまりもない。思ってもいないことを確かめるもんじゃあないと思うが、絡めとる必要はある。
「いつ脅そうか考えてるところです。秘密を守るのにおいくらくらい出します?」
「そうだな。これくらい?」
  小切手に金額を書いてエルムに渡すと、彼女が目を剥くのがわかった。
「いいんですか?」
「だから秘密ね」
「……わかりました」
  臨時収入で重要な秘密を黙ってくれる部下なら安上がりだ。